どこまで本気? レイブンズが試す『ダブルQBセット』
2018年06月17日(日) 00:30レイブンズが仰天プランを明らかにした。ベテランのジョー・フラッコとドラフト1巡指名のラマー・ジャクソンの2人のクオーターバック(QB)を同時に起用するダブルQBセットの可能性を探っているというのだ。実現すれば前代未聞のユニーク戦術の誕生となる。
フラッコが健在にもかかわらずジャクソンを1巡指名した時からどのようにQBを使い分けるのかが大きな話題になっていた。先発QBの座をフラッコからジャクソンに委譲するほどフラッコには衰えが見えない。ランニングバック(RB)のように交代起用するには2人のプレースタイルが違いすぎる。しかも、バックアップ候補にはロバート・グリフィン三世もいる。オフェンスの不調が数年間続いているレイブンズがQBで迷走しているようにも見えるのだ。
しかし、ヘッドコーチ(HC)を務めるジョン・ハーボウの論理は明快だ。ジャクソンの類まれな運動能力を使わない手はない。フラッコのパスもレイブンズには必要だ。それならば2人同時に使えないかという発想なのだ。
「2人のQBが同時にフィールドに立ったらどんな選択肢が生まれるだろうか? その答えを探しているところだ」とハーボウは言う。「実現すればクリエイティブなプレーが生まれる。今、オフェンスのコーチ陣が一生懸命に考えているよ」
ダブルQBセットがどのようなものになるかは不明だ。どちらかがRBやワイドレシーバー(WR)のポジションに入る可能性もある。これならワイルドキャットに似ている。
もしくは1980年代に日本大学が使った“ドラゴンフライ”のようなものになるのか。ドラゴンフライとはショットガンQBを2人置き、プレーによってスナップを受けるQBが替わるという故篠竹幹夫元監督考案のフォーメーションだ。ディフェンスはどちらのQBがパスを投げることになるのか、プレーが始まるまで分からない。
ドラゴンフライは2人のQBが並んで立つが、例えばピストルフォーメーションでQBの位置にフラッコ、RBにジャクソンが入る形は現実にありそうだ。オーソドックスにジャクソンをRBとして起用してもいいし、フラッコが横にモーションしてジャクソンがダイレクトスナップを受けることも可能だ。
勝手な想像は膨らむばかりだが、重大な問題が立ちはだかるのも事実だ。第一にQBがボールキャリアーとなればディフェンダーからのヒットをまともに受けてケガをする可能性が高くなる。また、QBはあくまでQBでRBやWRの代役が務まるわけもない。1つのポジションを無駄に使うくらいなら本職のスキルポジションプレーヤーを使った方がいいのは明らかだ。
現在行われているミニキャンプはフルコンタクトがないのでケガの心配が少ない。そこでいくつかのプレーを試している。ディフェンスが混乱する場面もあったようで、ハーボウもいくらかの手ごたえを感じている。あながち絵に描いた餅でもなさそうだ。これからトレーニングキャンプやプレシーズンを経て実現化されるのかどうか、楽しみだ。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。