コラム

埋まらなかったスティーラーズとRBリビオン・ベルの溝

2018年07月23日(月) 08:58

ピッツバーグ・スティーラーズのリビオン・ベル【AP Photo/Keith Srakocic】

今年もまたスティーラーズとランニングバック(RB)リビオン・ベルの契約延長交渉は不調に終わった。ベルは昨年に続きトレーニングキャンプとプレシーズンをホールドアウトすることが予想される。ただし、2018年シーズンの開幕までにはフランチャイズ契約にサインしてチームに合流するものとみられている。

昨年と全く同じ状況だ。ベルは開幕からチームに合流したものの、調整不足は明らかでシーズン序盤はスロースタートだった。今季も同じことが繰り返されるのか。そして、これがベルにとってスティーラーズのユニフォームを着る最後のシーズンになるとの憶測もある。

交渉決裂の理由は金額の差だ。複数の情報を集めるとスティーラーズが提示したのは平均年俸1,200万ないし1,300万ドルの複数年契約のようだ。これに対してベルは、昨季契約延長を済ませたワイドレシーバー(WR)アントニオ・ブラウンの平均年俸に匹敵する1,700万ドルを要求しているとされる。

結局、両者が歩み寄らないままに交渉期間は終了し、次回の交渉は今シーズン終了後ということになる。ベルは昨年に続いて1年のフランチャイズ契約下でプレーすることになり、1,450万ドルの年俸を手にする。

ベルの代理人であるアディサ・バカリ氏は地元ラジオ局のインタビューに答えてこう述べている。

「ベルはスティーラーズでNFLキャリアを終えたいと考えているんだ。それなのにチームが払おうとしているサラリーはポジションに対してであって、プレーヤーに報いようという気持ちがない」

後半部分は説明が必要かもしれない。スティーラーズはベルの年俸を決める際にNFLのRBのサラリーの水準を基に算出している。現在のNFLで最も平均年俸が高いのはファルコンズのデボンテ・フリーマンだが、それでも年間825万ドルである。スティーラーズがベルに提示した額はこれを優に超える。

対してベルはRBであると同時にWRとしてもプレーしているため、その分を上乗せしろと主張しているのだ。

過去にも似たような例はある。タイトエンド(TE)でありながらWRと同じパスコースを走るレシーバーが契約更改の時に、より年俸水準の高いWRとしてのサラリーを要求したのだ。もっとも、ベルの場合はRBとWRの両方として年俸を求めている。「どちらか高い方」ではなく「両方とも」なのである。

ベルはRBとしてもWRとしても高い水準でプレーしているのだから、そういう特別な選手としてサラリーの額が決められるべきだと主張しているのだ。

もちろんスティーラーズはまともに取り合わない。1人の選手に2つのポジション分の年俸を払うことなどできないからだ。ベルは故障欠場が少なくなく、それも大事なプレーオフで不在だった過去があるため、今ひとつ信頼に欠けるという考えもスティーラーズにはある。間違いなく、ベン・ロスリスバーガー、ブラウンと並ぶオフェンスの核であるのだが、さすがに1,700万ドルを4年や5年払い続ける余裕はない。

来年も同じような年俸交渉が行われるならばスティーラーズはベルを断念する可能性が高い。ベルほどの人材は欲しいチームがいくらでもあるだろう。ただし、RBに1,700万ドルもしくはそれ以上の年俸を払える球団がいくつあるだろうか。高い年俸は常に契約交渉の大きな障壁となり、ともすれば有能な選手が若くして引退する要因にもなる。

ボールを持ちさえすれば何かを起こしてくれる期待のあるベルだけに、体力の衰えよりも先に高年俸がネックとなって職場を失うという事態は避けたい。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。