コラム

フランチャイズQBとなるか、メイフィールドがブラウンズと契約

2018年07月29日(日) 07:51


クリーブランド・ブラウンズからドラフト指名を受けたオクラホマ大学のベイカー・メイフィールド【AP Photo/Eric Gay】

2018年ドラフト全体1位指名のクオーターバック(QB)ベイカー・メイフィールドがブラウンズと全額保証付きの4年3,269万ドル(約36億4,000万円)契約で合意に達した。総額には2,185万ドル(約24億3,000万円)の契約ボーナスが含まれる。

これでメイフィールドはホールドアウトすることなくキャンプの初練習から参加できる。これはメイフィールドの成長にとって重要なことだ。カレッジとは全く違うNFLのレベルにいち早く触れることができるからだ。

さらにブラウンズでは前スティーラーズのトッド・ヘイリーが攻撃コーディネーターに就任した。基本的にはヒュー・ジャクソンHC(ヘッドコーチ)のオフェンスフィロソフィーに従うことになるが、独自のプレーも導入されるはずでそれを本格的に学ぶキャンプは一日一日が大事だ。

鳴り物入りで入団したメイフィールドだが、ブラウンズは今季、先発では起用しない方針だ。今年一年はじっくりと実力を蓄え、来年以降の本格的な起用を考えている。昨今ではドラフト1巡指名を受けたQBが開幕先発を務める例が多いものの、ブラウンズはあえて育成に時間をかける。

ここには昨年の反省も生きているだろう。昨季は新人デショーン・カイザーを先発に抜擢するも、NFLワースト22個の被インターセプトを喫するなどまったくいいところがなかった。カイザーについても昨年の今頃のブラウンズは先発起用せずに育てると言っていたのだ。それがキャンプやプレシーズンでのパフォーマンスが良かったために欲が出てしまった。メイフィールドでは同じ轍を踏みたくないのだろう。

今年のブラウンズで先発QBを任されるのはビルズから移籍してきたタイロッド・テイラーだ。機動力があり、肩も強いQBながら、好調を維持できない不安定さも持つ。ロングパスを多用するヘイリーのオフェンススタイルでは、テイラーの強肩がうまくはまれば効果は絶大だが、パスの不安定さが出るとインターセプトの量産にもつながる。

ジャクソンがいつまでHCの座でいられるかもメイフィールドの将来には大きく影響を与える。ブラウンズは昨年16戦全敗だったため、ジャクソンは就任から2年間で1勝31敗の成績だ。オーナーのハズレム一家は異例の辛抱強さを見せたものの、それがいつまで続くかは分からない。開幕から連敗が続けばシーズン途中での解任の可能性もある。

HCの交代は多くの場合スタッフの総入れ替えを伴うことから、メイフィールドは来年には新たな攻撃スタイルを強いられるかもしれない。これは若いQB育成のためには大きなマイナス要因だ。今季からレッドスキンズに移籍したアレックス・スミスが49ers時代になかなか芽が出なかったのは、毎年のように攻撃コーディネーターが交代したことも原因のひとつとされる。メイフィールドも同じ目に遭うことがないとは言えないのだ。

ブラウンズは1999年のチーム復活以降、フランチャイズQBに恵まれてこなかった。それが2002年を最後にプレーオフに縁がない理由でもある。ちなみに、昨年まで最も長くプレーオフから遠ざかっているチームはビルズだったが、17年ぶりにポストシーズンに進出したのでその不名誉な座はブラウンズのものになった。

その不毛な時代にピリオドを打つためにもメイフィールドは期待外れに終わってはならない。待望のフランチャイズQBとなり得るか否か。その第一歩となるキャンプがいよいよ始まる。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。