コラム

堅調なパッカーズの経営と不安

2018年07月29日(日) 23:04


グリーンベイ・パッカーズのヘルメット【AP Photo/Mark Tenally】

パッカーズが25日に開催された株主総会を前に今年3月31日までの2017年度会計報告書を公開した。パッカーズは1932年以降、NFLで唯一株式を公開している非営利団体に属する、いわゆる市民チームだ。36万0,760人が502万株を保有しており、NFL全32チームで唯一、毎年年次会計報告書を公開している。

今回の報告書によれば収益は昨年より1,350万ドル(約14億9,900万円)増の4億4,594万ドル(約495億1,900万円)、経費は4億2,090万ドル(約444億1,800万円)で、4,480万ドル(約49億7,500万円)の増加となった。一方、営業利益は3,410万ドル(約37億8,700万円)、純利益は3,860万ドル(約42億8,600万円)と昨年度より約47%も減少している。ただし、会見でマーク・マーフィー社長は将来的な懸念はないとし、「私はこれがトレンドではないと考えている。いくつかの項目は周期的なものだ。財政的に強い年だった」と語っている。

まず、経費についてはコーチングスタッフが数人入れ替わったことがコスト上昇につながったとしている。また、遠征費の大幅な増加や設備投資の減価償却も増えた。さらに選手の総年俸額の上限を定めたサラリーキャップは5年連続で1,000万ドル以上上がっており、昨年度は1,170万ドル(約12億9,900万円)も上昇し、経費上昇の大きな要因となっている。

対して純利益の大幅な減少には昨年度が特別だったという事情がある。ラムズとチャージャーズのロサンゼルス移転、加えてレイダースのラスベガスへのフランチャイズ移転の手数料は10年に渡って各チームに分配されるが、その10年分にあたる2,700万ドル(約29億9,800万円)が収入として昨年に一括算入されていたからだ。こうしたことからもパッカーズの経営状態は堅調ということが言えるだろう。

とはいえ、一抹の不安もある。テレビ放映権料やロードゲームの収益といったNFLから分配される“全米収入”は2億5,590万ドル(約284億1,600万円)で前年度より4.9%の伸びだった。特にテレビ放映権料の分配は木曜夜のサーズデーナイトフットボール(TNF)が短期契約だったこともあり、毎年増額されているということだ。

一方、ゲームデー収入や、プレシーズンゲームおよびチーム番組などの地方放映権料、地元のスポンサーシップ、スタジアムツアーやパッカーズの殿堂といったランボーフィールドアトリウムの事業収入をまとめた“ローカル収入”は1億9,900万ドル(約221億円)で、前年度に対して160万ドル(約1億7,800万円)増、わずか1.6%しか伸びていないのである。ローカル収入は近年急激に伸び、2014年度から2017年度にかけて45%増の1億7,440万ドル(約193億6,600万円)となっていた。今回のローカル収入は、チケット価格が引き上げられたことを考慮すると実質収入が下がったといえるのである。マーフィー社長もランボー・フィールドに隣接するチームショップ、レストラン、殿堂の収入が減ったと認めた。

ではこのファン離れとも言える原因は何なのか。まず指摘されたのが、昨年、トランプ大統領までが関連することになった国歌斉唱時の抗議行動に対する論争の影響だ。テレビ中継の視聴率低迷の原因もそれだとする意見も多い。ただマーフィー社長は「私はそうは思わない。確かなことは分かっていない」とした上で「「全体として、チームのパフォーマンスは財務実績に影響を与える」と述べ、チームの成績が振るわなかったことを挙げている。

昨シーズン、パッカーズは4勝1敗と好スタートを切ったものの、第6週にクオーターバック(QB)アーロン・ロジャースが鎖骨を骨折して戦線を離れ、以降は負けが込んだ。結局、7勝9敗で9年ぶりにプレーオフを逃している。マーフィー社長はロジャースが負傷した以降営業不振も始まったとしている。これは妥当な意見だが、国歌論争でリーグの対応が騒がれていたのもこの時期なのだ。

将来的な不安もある。真っ先に挙げられるのがロジャースの契約更新だ。現在34歳のロジャースとパッカーズは2013年に5年総額1億1,000万ドル(約122億1,500万円)の契約を結んでおり、速やかな更新が求められているのである。ただ大型契約はサラリーキャップを圧迫し、経費の上昇を招く可能性が高い。この点についてマーフィー社長は対策はできているとし、キャップ対策を担当するラス・ボール副社長について「リーグの誰よりもキャップのマネジメントに優れている。私は全面的に信頼しており、合意に達し、将来にわたりキャップに組み入れることができるだろう」と語っている。

またランボー・フィールドのコンコースの改装や芝の張り替えなどリノベーションも実施される予定だ。

パッカーズの出費はフットボール関連だけではない。スタジアムの隣接地に公園やアイスリンク、レストラン、ホテル、ビジネスビルなどが入ったタイトルタウンと名付けられた地区再開発を行っている。これに6,500万ドル(約72億1,800万円)を投資しており、さらに出資額は増える見込みだ。それでも、こうした開発によってオフシーズンに関連施設を訪れるファンの数を増やすことも期待されている。

いろいろな要素が見えるパッカーズの経営状況だが、こうしたことが分かるのも市民チームゆえなのだ。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。