あせらずに確実に、着実に、アンドリュー・ラックの復帰プラン
2018年08月05日(日) 09:40肩の手術から回復中のため、昨年全試合に欠場したコルツのアンドリュー・ラックがトレーニングキャンプ初日からフルに練習に参加し、復活への準備を進めている。今年のオフのミニキャンプはノースローで過ごしてきたが、現在は回数限定ではあるもののパッシング練習にも参加している。
「毎日新しいハードルを越えるような気持ちだ」とラックは言う。「キャンプ初日は不安な部分もあったけれど、2日目になれば落ち着いてくる。まだ回復状況で手探りな部分はあるけれど、何よりも練習に参加できることが楽しい」
久しぶりの本格練習で筋肉痛や疲労は感じているが、肩に痛みはないようだ。
ラックは2015年シーズンに負傷で9試合もの間、戦列を離れた。それまで3年連続でプレーオフ出場を果たし、スーパーボウル出場も期待されたコルツは当然のごとく低迷。2012年のNFLデビュー以来、シーズンを追うごとに成長を見せていたラックが初めてぶつかる大きな壁であった。
翌年も肩の負傷を抱えながらの出場で精彩を欠き、昨年1月には右肩の関節唇修復の手術を受けた。それから今年のキャンプまで約18カ月にわたってパッシング練習を控えてきた。
トレーニングキャンプ序盤の現在はクオーターバック(QB)へのフルコンタクトが制限されているが、それでも7オン7や11オン11ではパスを投げ、1日ごとにその精度も上がっている。初日は9回投げて4回のパス成功だったのが、翌日は19回中15回の成功。休息日をはさんでの4日目には22回中19回という高い成功率を披露した。
ただし、これはディフェンスからのフルコンタクトのない状況でのもの。しかも、パスはショートからミドルレンジのものに限定されており、長いパスを投げたときのコントロールや肩への負担はこれからの課題となる。
フランク・ライク新HC(ヘッドコーチ)はフランチャイズQBであるラックの復調を急がない方針だ。1日のパス数は低めに抑えられ、20代の選手であるにもかかわらずベテラン並みの休息を与えている。
これは一昨年のラックが復帰をあせったがために肩の故障を長引かせてしまい、結果的に利き腕の肩にメスを入れることになってしまったことの反省からだ。良くも悪くもコルツはラックのパフォーマンスに負うところが大きいから、開幕までに再び故障するようなことがないように細心の注意を払っている。
コルツは8月9日にシーホークスとのプレシーズンゲームが予定されている。ライクはこの試合にラックが出る可能性も示唆しているが、実際はその可能性は低いだろう。出場しても、数プレイに限られるはずだ。
というのも、まだラックはコンタクト解禁になっていないし、彼を守るべきオフェンスライン(OL)に故障者が多く、さらに8月1日にはオフェンシブタックル(OT)ジャック・ミューホートがわずか4年で引退を発表した。安定したプロテクションができない環境にあるのだ。もともとスキルポジションで先発候補の選手はプレシーズンの初戦に出場するケースは少ない。ラックも2試合目ないし3試合目からの登場と考えるのが妥当だろう。
少しずつではあるが着実に復帰に向けて歩んでいるラック。それでも、厳しい見方をすればケガの再発や手術の影響による肩の劣化などがみられた場合、それはラックのコルツでの立場を失う理由にもなりかねない。父オリバーもNFLで活躍したQBだったが、そのサラブレッドと言えどもチームを勝たせられないのであれば必要とされないのがNFLの世界だ。ラックにとっては復帰のシーズンが進退をかけたものでもあると言って過言ではない。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。