49ersの救世主となるか、無名から抜擢されたQBニック・ムレンズ
2018年11月11日(日) 08:55シーズン第9週のサーズデーナイトゲームでレイダーズと対戦した49ersの先発クオーターバック(QB)に見覚えがなかった人も多いのではないだろうか。それほどニック・ムレンズは無名選手だった。
ところが、第1クオーターを見終わる頃には「こんないい選手がいたのか」という驚きに変わったに違いない。パスラッシュの影響を受けないクイックリリースと、ワイドオープンになったレシーバーを見逃さない判断力、ポケットから出てプレーを継続させるモビリティ。どれをとってもNFL初先発とは思えない落ち着きぶりと活躍だった。
終わってみれば22試投中16回の成功、262ヤードパッシングで3タッチダウンパスを成功させている。レーティング151.9は初先発で少なくとも15回以上の試投を行ったQBとしては旧NFLとAFLが合併した1970年以降で最高値だという。
ムレンズは南ミシシッピ大学出身で、昨年ドラフト外で49ersに入団。第9週までは去年と今年のプレシーズンで8試合中5試合に出場したが、公式戦は経験がなかった。プレシーズンゲームでも先発出場はなく、初のレギュラーシーズンゲームが初のスターター出場だったのである。
49ersはこれまでに開幕先発のジミー・ガロポロが今季絶望となり、代わって先発を務めたC.J.べサードは0勝5敗と不振を極めた。第8週のカーディナルス戦で手をケガしたこともあり、カイル・シャナハンHC(ヘッドコーチ)はムレンズの実戦投入に踏み切った。シャナハンHC自身もムレンズがここまでの活躍を見せるとは予想していなかったかもしれない。
すでに49ersは第10週のジャイアンツ戦でもムレンズが先発することを発表している。ケガをするか大きな不振に陥らない限りムレンズがスターターの座を守ることになるだろう。
昨年終盤はトレード期限ぎりぎりで獲得したガロポロを満を持して起用し、5連勝でシーズンを終える好ましい結果を得た。49ersは明らかにムレンズにその奇跡を期待している。
しかし、残りのスケジュールは楽観できるほどやさしいものではない。ジャイアンツ戦の後にバイウイークを迎えるが、その後の終盤6週間でラムズ、シーホークスとそれぞれ2回ずつ対戦し、好調のベアーズとの試合も控える。試合を追うごとにムレンズのプレースタイルも研究されていく。むしろムレンズと49ersには試練が待ち構えていると言って過言ではないのだ。
デビュー戦で活躍した後、大学の先輩でもあるブレット・ファーブから祝福のメールをもらったというムレンズ。今後、同じようなメールをいくつ受け取ることができるだろうか。その数がムレンズの49ersにおける価値を測るバロメーターになる。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。