コラム

いったい誰が得をするのか? リビオン・ベルの契約拒否

2018年11月17日(土) 08:51


ピッツバーグ・スティーラーズのリビオン・ベル【AP Photo/Ed Zurga】

スティーラーズのランニングバック(RB)リビオン・ベルがチームから提示されていたフランチャイズ指名契約の締結を拒み、今季の出場が不可能となった。ベルはスティーラーズから1,400万ドル超の1年契約を提示されていたが、これを不服としてホールドアウトを続けていた。

NFLと選手会の間で締結されている労使協定では、チームから契約を提示されていながらアメリカ東海岸時間11月13日(火)16時【日本時間14日(水)午前6時】を過ぎてチームと契約していない選手は今季の試合に出場することができない。ベルはスティーラーズから提示された契約へのサインを拒んだため、今季の試合出場の資格を失った。

スティーラーズにもベルがこの時期に復帰するとの期待感があったのは確かだ。開幕からジェームズ・コナーが先発RBとして活躍してきたが、チームにはベル待望論が根強くあった。

シーズン第7週のバイウイークの前にはクオーターバック(QB)ベン・ロスリスバーガーがそれまで活躍していたコナーを認めながらも、「コナーが先発RBとして活躍するのは今秋が最後だろう。ベルが戻ってくるだろうからね」と述べている。これはチームの総意だったはずだ。ところがバイウイーク中にもベルはチームに合流せず、スティーラーズは“キラーB”の一角を欠いたままの試合を余儀なくされたのである。

もっとも、チームは5連勝中でベル不要論が強くなっているのは否定できない。

今回、ベルが提示された契約にサインしなかったことはベルとスティーラーズの決別を意味することになるだろう。今季のスティーラーズがどういう成績で終わろうと、来年の戦力構想にはベルは入っていないはずだ。ベルはフリーエージェント(FA)となって新天地を探すことになる。

果たしてベルはFA市場でどれだけの価値を見いだせるのだろうか。

大きな障害となると予想されるのは年俸だ。ベルはスティーラーズに対してワイドレシーバー(WR)アントニオ・ブラウンズ並みの高額契約を求めたと伝えられる。これが認められなかったのは、過去にベルの故障が多く、肝心のプレーオフで活躍した実績に乏しいからだ。こうした選手に高額年俸を提示するチームは多くない。

今季のベルの行動も彼の獲得を考慮するチームには好印象を与えたとは言い難い。スティーラーズが年俸総額を抑え、オフェンスのスキーム上でもベルを多用したことは事実だが、それをもって移籍に前向きなチームがどれだけ出てくるかは疑問だ。昨今のNFLでは選手のパーソナリティ(人格)をとても重視するのだ。

ベルはNFLでも屈指のRBだ。その姿が今季見られないのは残念で仕方ない。来年に復帰したとしても、1年のブランクがどう響くか。NFLの人事はビジネスの要素が強いが、チームに対する忠誠やファンに対する愛情が欠けるのは望ましくない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。