ペイトリオッツで光る新人RBソニー・ミシェルの存在感
2019年01月26日(土) 09:51正直に言って、レギュラーシーズン終盤までペイトリオッツのスーパーボウル出場はないと思っていた。タレントがそろっているという意味ではチーフス、連勝の勢いではチャージャーズとコルツに分があったからだ。
序盤は1勝2敗のスタートで、12月にはドルフィンズとスティーラーズに連敗を喫するなど、およそいつものペイトリオッツらしくない戦いが続いた。しかし、気が付けば史上最多の11回目、ビル・ベリチックHC(ヘッドコーチ)とクオーターバック(QB)トム・ブレイディの時代になってからだけでも9度目となるスーパーボウル出場だ。優勝すればスティーラーズと並ぶ最多6勝となる。
今年がペイトリオッツにとって苦しいシーズンだったことは間違いない。攻守のスキルポジションで人材が入れ替わり、ワイドレシーバー(WR)ジュリアス・エデルマンは序盤に出場停止処分を受け、タイトエンド(TE)ロブ・グロンコウスキーも故障に悩まされた。
だが、だてに2001年以降16回の地区優勝を果たし、8年連続でAFC決勝に進んできたわけではない。チームの調子が悪いなら悪いなりに、タレントが不足しているならその状況に応じた戦い方とチーム作りができるだけのノウハウは蓄積されている。レギュラーシーズンは12月に戦力が整うようにチームを設計し、プレーオフでは対戦する相手の弱点を確実に突いてくる。
今年は例年よりも多くラン攻撃を使ってきたところに特徴がある。プレーオフでは特にそれが顕著だ。フルバック(FB)ジェームズ・デベリンを多用してソニー・ミシェルやレックス・バークヘッドのランで時間をコントロールする。得点力の高いチャージャーズやチーフスに対抗するにはこれが一番の方策だった。
その中でもミシェルの存在感は光った。彼の存在なくしてスーパーボウル出場はなかったかもしれない。
ミシェルは昨年のドラフトで1巡(全体31位)指名を受けて入団した。第2週にシーズンデビューを果たし、徐々にフィーチャーバックとして起用されるようになった。ボールキャリーはチーム内で断トツの209回(2位ジェームズ・ホワイトは94回)を記録している。もっとも、総獲得距離は931ヤード、1キャリーあたりの平均獲得距離は4.5ヤードでNFLでは並の成績だ。
ただし、数字では測れないところにミシェルの貢献がある。ペイトリオッツはランで攻撃を組み立てるタイプのチームではない。むしろ、伝統的にパス偏重型のチームだ。そこにミシェルのランを織り交ぜることでディフェンスはプレーの予測がしにくくなり、オフェンスは効率よくプレーコールを出すことが可能になる。
プレーオフではミシェルの数字も際立つ。ディビジョナルプレーオフのチャージャーズ戦は24回のボールキャリーで129ヤード、AFC決勝のチーフス戦はシーズン最多の29キャリーで113ヤードを稼いだ。獲得距離はいずれも今季の2番目と3番目の長さだ。そして、2試合でのタッチダウン数は5に及ぶ。
ペイトリオッツが今年のプレーオフで重視しているクロックコントロールには欠かせない存在で、ブレイディやグロンコウスキーほど目立たないが、貢献の大きい選手だ。
ラムズと対戦するスーパーボウルはまた違った戦術を組み立ててくるかもしれない。それでもミシェルのランが計算できるのはアドバンテージで、ベリチックとジョシュ・マクダニエルズ攻撃コーディネーターは今頃いろんなバリエーションのプレーを考えているに違いない。
ランニングバック(RB)としてはラムズのトッド・ガーリーに匹敵するほどではないが、チームの中の存在感では決して引けをとらない。スーパーボウルでどのような役割を与えられ、それにどう応えていくのか楽しみだ。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。