コラム

カンファレンスチャンピオンシップ展望:アトランタへの切符を手にするのは?

2019年01月20日(日) 08:26


カンザスシティ・チーフスのパトリック・マホームズとニューイングランド・ペイトリオッツのトム・ブレイディ【AP Photo/File】

2018年シーズンのファイナル4に残ったのは両カンファレンスのトップ2シードチームとなった。ペイトリオッツを除く3チームはいずれもスーパーボウルから久しく離れている。セインツはフランチャイズ初のリーグ制覇を果たした2009年シーズン、ラムズはスーパーボウルデビューを果たすもトム・ブレイディに敗れた2001年以来だ。チーフスに至っては49年ぶりの大舞台である。

ファイナル4のどの組み合わせも面白いスーパーボウルとなりそうだが、実際に出場権を手にするのはカンファレンスチャンピオンシップゲームで勝利したチームだけだ。果たして勝ち残るのはどのチームか?

【カッコ内はプレーオフ戦を含めた戦績】

ラムズ(14勝3敗)対セインツ(14勝3敗)
両チームとも攻守のバランスが取れた死角のほとんどない完成されたチームだ。レギュラーシーズン第9週の対決ではシュートアウトの末にセインツが45対35で勝利し、開幕から続いていたラムズの連勝を止めた。ともにタレントが多く、戦力も整っているだけに勝敗の予想は難しい。

こうした2チームの対戦の際には最大のプレーメーカーを抑え込んだ方に軍配が上がる。ラムズならランニングバック(RB)トッド・ガーリー、セインツならクオーターバック(QB)ドリュー・ブリーズだ。

ガーリーは今季計21タッチダウンを計上し、最優秀オフェンス賞を獲得した昨年を上回る活躍と存在感を示した。ランとパスキャッチの2ディメンションでレベルの高いプレーをするガーリーを止めるのは至難の業だ。特にセインツはディフェンシブタックル(DT)シェルドン・ランキンスがアキレス腱断裂で出場不可能となり、ラン守備が手薄だ。セーフティ(S)をスクリメージラインにまで上げて守らせる8メンボックスの採用が必要となるかもしれない。

となればセカンダリーの人数が減るのでQBジャレッド・ゴフにはパスを展開しやすい条件が生まれる。ここがセインツディフェンスの頭の痛いところだ。

結局のところ、ガーリーのランを止めてゴフのパスと勝負するのか、ランよりもパスを優先して止めにいくのかの二択しかない。幸いにセインツは強力なパッシングアタックによる得点力が高い。点の取り合いには負けないはずだ。とすれば、時間をコントロールされるガーリーのランの方が怖いわけで、ランストップが優先課題になるだろう。

一方、ラムズはブリーズのパスをどのような方法で不発に追い込むのか。パスラッシュで攻めるのか、バックフィールドのパスカバーを厚くするのか。ブリーズはクイックリリースからロングパスを投げられる特殊な能力を持つから、通常ならパスラッシュはあまり効果が上がらない。

しかし、ラムズは20サックを記録したディフェンシブエンド(DE)アーロン・ドナルドを擁する。このビッグプレーメーカーを活用しない手はない。ここは執拗なパスラッシュでブリーズにプレッシャーを与え続けるべきだろう。ドナルドのパスラッシュをブリーズのパッシングに真正面からぶつけていき、それでもパスを通されてしまうのなら仕方がない、くらいの開き直りが必要だ。

試合会場はメルセデス・ベンツ・スーパードームだから天候の影響はない。両チームのオフェンス力が存分に発揮される環境であり、点の取り合いになることが予想される。当然、より多くエンドゾーンに達する機会を得るチームが勝つことになり、ターンオーバーやレッドゾーンにおけるミスは致命的だ。

ペイトリオッツ(12勝5敗)対チーフス(13勝4敗)
チーフスの本拠地、アローヘッド・スタジアムで行われる初のAFCチャンピオンシップゲームである。8年連続でAFC決勝進出を決めたペイトリオッツだが、アウェーで戦うのは2015年のブロンコス戦以来だ。過去7シーズンで4回スーパーボウルに出場しているが、それはいずれもホームで迎えたカンファレンス決勝を勝ち進んだもので、ロードでの勝利はない。

ペイトリオッツはチャージャーズを破ったディビジョナルラウンドで、ラン重視のオフェンスを展開して驚かせた。ブレイディのパスを警戒していたチャージャーズは完全に裏をかかれて最後まで巻き返せなかった。

このようにペイトリオッツは相手によって変幻自在にスキームを変えてくる。これはオフェンスだけでなくディフェンスでもそうだ。チーフスに対しても予想外の対策を用意してくる可能性は高い。

今季のチーフスはディフェンスが弱点だとされる。確かにリーグでもランキングは最下位に近い。ただし、ホームとロードでは全く違うユニットかと思うほどにパフォーマンスが異なる。例えば、レギュラーシーズン中の失点はロードが1試合平均35点なのに対し、ホームではわずか18点だ。ディビジョナルラウンドでもコルツをわずか13点に抑えこんだ。

しかし、試合の終盤にはマーロン・マックのランが出るなどラン守備にはほころびも見えた。ここはペイトリオッツにとって付け入る隙となるだろう。

チーフスはQBパトリック・マホームズがいかに高いパフォーマンスを見せるかだろう。コルツ戦では20ヤードを超えるパスはほとんど成功しないなど不安なところも見られた。破天荒ともいうべきプレースタイルからビッグプレーを生んでしまうところにマホームズの実力と魅力がある。それが封じ込められるようだとチーフスは苦戦を強いられる。

ブレイディに対してはジャスティン・ヒューストンとディー・フォードのパスラッシュでプレッシャーをかけたい。試合の序盤でプレッシャーを感じると、意外なほどにブレイディはパスのメカニズムが狂いやすい。早い段階でサックを連発するなどパスラッシュの強烈さをブレイディの頭の中に植え付けることができれば、ディフェンスは互角以上に戦える。

この試合はプレーオフでの試合の経験値が結果を左右するのではないだろうか。チーフスはホームアドバンテージを持つが、ペイトリオッツはそれこそ百戦錬磨の手練れだ。焦りが生じる場面に対処するすべはよく心得ている。クロックマネジメント、タイムアウトの使い方、シチュエーションフットボールなど頭脳戦の重要度が増す試合だ。経験豊富なペイトリオッツにチーフスがいかに冷静に対処できるかがカギを握る。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。