ジェッツのGM解雇劇、背景にあるのは?
2019年05月27日(月) 05:58ジェッツが5月15日付でジェネラルマネジャー(GM)だったマイク・マッカグナンの解雇を発表した。当日朝にオーナーのクリストファー・ジョンソン自身がマッカグナンに通達し、即日有効となった。新GMが決まるまではアダム・ゲイス新ヘッドコーチ(HC)が代行する。
マッカグナンは昨年まで4年間GMを務めた。その間のジェッツは24勝40敗と低迷しており、最近の2年間はファンの間から「マッカグナンを解任しろ」との声が高くなっていたため、職を解かれたこと自体は驚くべきことではない。ただし、フリーエージェント(FA)やドラフトによる選手補強がひと段落し、OTA(チーム全体練習)が始まろうとしているこのタイミングは異例だ。そのため、いろいろな憶測が飛んでいる。
その最たるものはゲイスとの権力争いだ。FAで獲得した選手の年俸について両者で意見の食い違いがあり、その結果、マッカグナンがチームを追われたというものだ。解雇以来この内容を大々的に報じる報道が多く、ゲイスとジョンソンはそれぞれメディアに対応しながら否認に忙しい。
それでも、マッカグナンとゲイスの間で年俸に対する議論があったのは事実のようだ。ゲイスがそのように認めている。今年のFAとドラフトは完全にマッカグナン主導で行われた。ドラフトでアラバマ大学のディフェンシブタックル(DT)クィネン・ウィリアムズを1巡指名し、FAでランニングバック(RB)リビオン・ベル、ラインバッカー(LB)C.J.モズリーらビッグネームを獲得するなど、その積極性は評価されていた。
両者の食い違いが顕著になったのは数人のFA選手の年俸だという。たしかにマッカグナンは今年のFA市場に巨額を投じた。補償年俸は総計で1億2,000万ドルを超えたともいわれる。リーグで断トツの最多だ。これがゲイスやジョンソンの意向に反したというのが「確執説」の根拠だ。
マッカグナンはドラフト中位から下位のラウンドで人材を発掘することに失敗したとも言われる。1巡目から2巡目の指名選手はチームで定着率が高いが、4巡目以下となると、いわゆる「バスト(期待外れ)」が多くなるというのだ。
5年ほど前のシーホークスの例を見るまでもなく、長期に安定するチームを作るにはドラフトによる補強が効果的で、さらに中位以降のラウンドで好選手を獲得できれば年俸がチーム経営をひっ迫することもない。
ところが、そういったドラフト戦略に失敗したマッカグナンは高年俸でFA選手をかき集めることによって「今すぐ勝てるチーム」を作ることに性急すぎたのかもしれない。
2017年シーズンに2年連続で5勝11敗に終わったとき、マッカグナンは当時のHCトッド・ボウルズともに解任される可能性が高かったが、ジェッツは両者を慰留。しかしながら、昨年も4勝12敗に終わった結果、ボウルズは解雇されたがマッカグナンはGM職にとどまった。これ幸いにとばかり、マッカグナンは権限を行使してチーム力の早急な向上を狙ったのだ。しかし、その性急すぎるやり方がゲイスばかりでなくジョンソンの不興まで買ってしまったとすれば、この「季節外れ」な解任劇は納得がいく。
真相はわからないが、この時期のGM解任はやはりただ事ではない。前回のコラムでも触れたように新ユニフォームで新たなスタートを切ろうとするジェッツの勢いをそぐようなことにならないことを望む。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。