コラム

今季試合日程に見るネットワークの思惑

2021年06月01日(火) 10:02

ラスベガス・レイダースの本拠地、アレジアント・スタジアム【AP Photo/Isaac Brekken】

現地5月12日、NFLは全18週間272試合におよぶ2021年レギュラーシーズンのスケジュールを発表した。スポーツ界だけでなく、アメリカのテレビ業界においても今回の発表は大きなインパクトを与えるものになったようだ。

というのも、アメリカのテレビ業界では9月からの1年間におけるほとんどの番組のCM枠販売交渉を行うアップフロントと呼ばれる交渉期間が5月中旬に開始されるからだ。

NFLのテレビ中継はテレビ業界において圧倒的な人気を誇る強力コンテンツだ。昨年1年間の視聴者数ランキングにおいて、首位のスーパーボウルを皮切りに、上位100のうち約80をNFL中継が占めているほどである。そんなNFL中継でどの試合をどの時期に放映するかがまさにアップフロントが始まる時期に発表されれば、ネットワークにとって販売交渉の大きな武器になるのは明らかなのだ。

そして、発表されたスケジュールを各ネットワークの放送パッケージで見ていくと、それぞれの特徴とスケジューリングの巧みさが見えてくる。

まず日曜午後のAFC(アメリカン・フットボール・カンファレンス)放映権を持つCBSが強みとして打ち出すのが、若手有力クオーターバック(QB)がそろっている点だ。カンザスシティ・チーフスのパトリック・マホームズ、ボルティモア・レイブンズのラマー・ジャクソン、クリーブランド・ブラウンズのベイカー・メイフィールド、バッファロー・ビルズのジョシュ・アレン、マイアミ・ドルフィンズのトゥア・タゴバイロア、さらにドラフトでジャクソンビル・ジャガーズのトレバー・ローレンスとニューヨーク・ジェッツのザック・ウィルソンも加わった。これらの選手が多く見られることは大きなアピールポイントになるだろう。

また、CBSはレイトと呼ばれる東部時間日曜日の16時25分に開始される枠で、第1週にブラウンズ対チーフス、第2週にダラス・カウボーイズ対ロサンゼルス・チャージャーズ、第4週にピッツバーグ・スティーラーズ対グリーンベイ・パッカーズを放送のダブルヘッダー2試合目としてそろえた。CBSスポーツのショーン・マクマナス会長は「ダブルヘッダーの週に、16時30分のビッグゲームがこれほど揃ったことはない」とコメントしている。

さらに、NFC(ナショナル・フットボール・カンファレンス)のチームが出場する放映担当カードではフィラデルフィア・イーグルスが4試合、シアトル・シーホークスが4試合、タンパベイ・バッカニアーズが3試合、カウボーイズが3試合とトップチームが多い。特に第3週のスティーラーズ対パッカーズ戦はリーグで視聴率の高い2チームがランボー・フィールドで対戦するため高視聴率が期待されている。

日曜午後のNFC放映権を持つFoxも充実したスケジュールとなったようだ。Foxスポーツのエリック・シャンクスCEOは「スケジュールでリクエストしていた上位10試合のうち8試合、上位15試合のうち12試合を獲得した」と胸を張る。

やはりダブルヘッダーの2試合目は10試合のうち8試合が高視聴率の望めるカウボーイズ、パッカーズ、バッカニアーズのいずれか出場するカードとなっている。さらにFoxはMLBワールドシリーズの放映権を所有しており、同シリーズが開催中となる見込みの10月31日、第8週のレイト枠ではバッカニアーズ対セインツを放送予定となっている。シャンクスCEOが「トム・ブレイディがワールドシリーズの試合の前に登場することは、インパクトのある週になるだろう」と話すのも納得である。

一方でFoxは木曜夜のサーズデーナイトフットボール(TNF)の放映権も持つ。ただし契約は今シーズン限りで、来シーズンからはアマゾン・ドット・コムが独占的にストリーミングを行うことになっている。そのためFoxは力を抜くのではという見方もあった。しかし、シャンクスCEOは「私たちは明らかに、今年をレームダック(死に体)の年とは考えていない。今後もTNFには、それ以上に力を入れていくつもだ。NFLは本当に良いスケジュールを組んでくれたし、ここ数年のTNFに匹敵するものだと思う」とこれを否定している。たしかに第16週12月25日のブラウンズ対パッカーズはクリスマスナイトにランボー・フィールドでの一戦とあって、高視聴率が確実と見られる。また、感謝祭の夜となる第12週のビルズ対ニューオーリンズ・セインツも人気を博すだろう。

NBCが放映権を持つ日曜夜のサンデーナイトフットボール(SNF)はシリーズ番組別視聴者数ランキングで10年連続トップを維持してきた。今シーズンもその記録を1年伸ばせそうなラインアップとなっている。特に今シーズンのNBCは来年2月にロサンゼルスで開催予定の第56回スーパーボウルの放映権も持っているため、カウボーイズ対バッカニアーズの開幕戦から最後まで走り抜けることになるだろう。

そんな中でもまず目につくのは12月で、サンフランシスコ・49ers対シーホークス、シカゴ・ベアーズ対パッカーズ、セインツ対バッカニアーズ、ワシントン・フットボール・チーム対カウボーイズ、ミネソタ・バイキングス対パッカーズとなっており、NBC幹部が「地区ライバル対決の12月」と呼ぶほどの充実ぶりとなっている。

さらに、第4週のバッカニアーズ対ニューイングランド・ペイトリオッツはトム・ブレイディの古巣帰還とあって、NBCが大いに売り込むのは確実だ。

ディズニー傘下のスポーツ専門局ESPNはマンデーナイトフットボール(MNF)の権利を持つが、今シーズン特に力を入れるのは同じくディズニー傘下の地上波ABCとの同時放送だろう。

ABCは第1週と第18週のダブルヘッダー、計3試合を放送する予定だ。特に注目されるのは第1週のボルティモア・レイブンズ対ラスベガス・レイダースである。対戦カードだけでなく会場がラスベガスのアレジアント・スタジアムで、昨シーズン開場した同スタジアムで初めてファンを入れた試合になることが確実視されているためだ。

このようにネットワークの観点からもさまざまな意図が見えるスケジュールになっているのである。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。