コラム

物議を醸すもキャパニックが起こした行動の意義とは

2016年09月08日(木) 13:49


国歌斉唱中に起立せず批判を浴びたコリン・キャパニック【AP Foto/Chris Carlson】

49ersのクオーターバック(QB)コリン・キャパニックによる抗議表明が大きな波紋を生んでいる。

キャパニックは先月26日に行われたプレシーズン第3週のパッカーズ戦前、国歌演奏時に起立せず、ベンチに座ったままだった。キャパニック自身は、これは黒人など人種的少数派を抑圧している国の国歌や国旗に敬意を払うことはできないという抗議を示したものだと説明している。

さらに第4週のチャージャース戦ではやはり起立せず、フィールドにひざまずき、やはり抗議の意志を示した。

この行動は大きな関心を呼んだが、当初は「チームや競技に対して失礼」といった批判が目立っていた。しかし次第に情勢が変わっていったのである。

まず、チームは「宗教や表現の自由をうたう米国の精神に基づき、個人が国歌演奏に参加するかしないかを選択する権利を認める」とキャパニックの意思を尊重すると声明を出し、擁護した。

さらに、キャパニック擁護を次々と明らかにしていったのが退役軍人たちである。「自由を守るために戦っているんだ。国歌のためじゃない」といった声や、「彼が抗議する権利のために兵役に就いたんだ。警官の暴力のためじゃない」など、キャパニックを支持し、表現の自由へのサポートを示す意見が『Twitter(ツイッター)』に次々と投稿されたのである。

加えて、この抗議表明に賛同する動きはNFL外にも広がった。サッカー女子アメリカ代表のミッドフィルダー(MF)ミーガン・ラピノーが女子プロリーグ、NWSLの試合前の国歌演奏時にやはりフィールドにひざまずいたのである。ラピノーは試合後キャパニックをサポートする必要があると感じたためと説明している。

そして、この一件はオバマ大統領にまで及ぶ。5日に行われた記者会見で、「彼は憲法で保障されている表現する権利を行使している。スポーツ選手がそうした行動に出るのには長い歴史があると思う」と述べ、「私は彼の真摯さを疑っていない」と擁護したのだ。

一方、この件は意外なところにも影響を与えたようである。スポーツ用品店チェーンのレポートによれば、4月のドラフト当日、キャパニックのジャージ売り上げは33位だったが、先週は7位にまで急上昇したのだという。QBに限ればキャム・ニュートンとトム・ブレイディに次ぐ3位だったということだ。いかに高い関心を呼んだかわかる数字である。

さまざまなことを考えさせられたキャパニックの行動の意義は大きい。ただチーム内での先発争いでキャパニックは苦しい立場にある。そちらでも躍進があればいいのだが。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。