エース不在の中で奮闘する代役たち
2016年09月15日(木) 11:2216年前にキアヌ・リーブス主演の『The replacements(ザ・リプレイスメント/邦題:リプレイスメント)』という映画があった。ストライキを行ったスター選手に代わって、かつてお払い箱となった元選手たちが試合に出場して活躍するというストーリーだ。
状況は違うが、2016年のキックオフウイークエンドはまさに代役クオーターバック(QB)たちの奮闘が目立ち、この映画を想起させる試合が多かった。
開幕週はペイトリオッツ、カウボーイズ、バイキングスでバックQBが先発出場した。エースQB不在で迎える新シーズンは不安でいっぱいなはずだ。しかし、いずれも光明を見出す結果となった。
トム・ブレイディが4試合の出場停止処分を受け入れたペイトリオッツは3年目のジミー・ガロポロが出場した。パス試投31回、うち20回成功というのがガロポロの過去2年の公式戦の成績だ。相手はNFC優勝候補のアリゾナ・カーディナルス。しかも、タイトエンド(TE)ロブ・グロンコウスキーが故障で欠場し、オフェンスライン(OL)も2人の新人が先発するという逆境の中での試合だった。
第2クオーターにはワイドレシーバー(WR)クリス・ホーガンに37ヤードのタッチダウンパスを成功させるなど、レギュラーシーズンゲーム初先発という緊張感の中でも落ち着いたプレーを見せ、チームを勝利に導いた。
2回のファンブル(1ロスト)などボールセキュリティに課題は残したものの、ほぼ負けを覚悟していたであろう初戦で白星を拾った意味は大きい。ブレイディが復帰するまでの残り3試合はいずれもジレット・スタジアムで行われる。ホームで強いペイトリオッツとしては最大の難関を突破して意気揚々といったところか。
バイキングスではショーン・ヒルが先発した。膝の靱帯(じんたい)断裂でテディ・ブリッジウォーターが今季絶望となったためだが、イーグルスとのトレードで獲得したサム・ブラッドフォードは開幕に間に合わなかった。ブラッドフォードがバイキングスのオフェンスを把握するまでのつなぎのような役割だが、チームが白星スタートしたことで何とか責任を果たした。
ヒルは特段活躍したという印象はない。二つのタッチダウンはディフェンスによるインターセプトとファンブルリターンだ。しかし、自らのミスで試合を壊すことはなかった。実はこれこそがバックアップQBに求められる大きな資質だ。
昨季地区優勝したバイキングスのようなチームではブリッジウォーター以外にもプレーメーカーは存在する。ランニングバック(RB)エイドリアン・ピーターソンやインターセプトリターンタッチダウンをマークしたラインバッカー(LB)エリック・ケンドリックスなどがそうだ。こうした選手の力を引き出すことができればいい。この試合ではステフォン・ディッグスが100ヤードレシーブを達成した。ヒルとの間にタッチダウンパスが生まれれば申し分なかったが、それでも若手WRの実力を生かしたクオーターバッキングは評価されていい。
次戦は早くも同地区ライバルのパッカーズとの対戦だ。さらに新設のUSバンク・スタジアムのこけら落としという重要な試合でもある。ブラッドフォード投入のうわさも流れるが、どちらが先発するにせよ、チーム一丸となって強敵に立ち向かうしかない。
試合には敗れたものの、カウボーイズの新人QBダック・プレスコットも善戦した。同じく新人のRBエゼキエル・エリオットとのコンビは将来への期待を抱かせる。ただし、シーズン後半まで復帰できないトニー・ロモの代役を果たすためにはパスの成功率をあげることは不可欠だ。
今回とりあげたQBたちはいずれも代役に過ぎない。先発QBが復帰すればバックアップに戻る運命だ。しかし、かつてドリュー・ブレッドソーが故障欠場している間にエースの座をつかんだブレイディの例もある。実力社会のNFLでは約束事はひとつもない。代役の中からスターが生まれるというストーリーは、決して映画の中だけではないのだ。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。