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選手の安全確保に向けて必要とされる脳しんとうプロトコルの変更

2022年10月03日(月) 14:23

NFLロゴ【Ryan Kang via AP】

NFLにおける脳しんとうに関する危機は、間もなくプロトコルの変更を行うと発表されたタイミングで改めて強調されている。現地1日(土)午後、マイアミ・ドルフィンズのクオーターバック(QB)トゥア・タゴヴァイロアがストレッチャーに乗せられてフィールドを離れてから48時間足らずで、1人の医師がNFLPA(NFL選手会)によって解雇された。その1週間前の試合で行われたタゴヴァイロアに対するケアに関しての調査がまだ終わっていない中での判断だった。

リーグとNFLPAは共同声明を通して、よろけた――いわゆる、粗大運動に乱れがある――選手が医師から頭部以外のケガと判断された場合に、試合に復帰できるという抜け穴を閉じるつもりだというメッセージを発した。それから数時間後、日曜朝から試合が開催されている。今後、そのような症状を見せた選手は“復帰不可”のリストに加えられ、自動的にその日の試合に復帰できなくなる。まだ、最新のプロトコルは明文化されておらず、有効にもなっていない。しかし、選手やコーチ、そして最も重要な役割を果たすアスレチックトレーナーや医師は、今週のキックオフに間に合うように“念には念を入れよ”と警告されている。チームメイトに支えられていた選手が、わずか数分で復帰したあの場面は、もう繰り返してはならない。

それにより、日曜日はふらつきやつまずきを探すという不思議な1日になっている。だからこそ、プロトコルの微妙な差異が重要になってくるのだ。この日、頭部の負傷あるいは脳しんとうで除外された選手の中に、クオーターバックは2人いる。ニューヨーク・ジャイアンツのタイロッド・テイラーとニューイングランド・ペイトリオッツのブライアン・ホイヤーだ。主観に基づかずに粗大運動の乱れを判断することは明らかな修正策であり、非常に正しいことのように見える。

では、足首や膝が原因でよろけた選手はどうなるのだろうか。

NFLのチーフメディカルオフィサー(CMO/医務部長)であるアレン・シルズ医師は日曜朝、「もし粗大運動の乱れを主観的な判断の対象から外せば、よろけた人は誰でも除外されることになる」と述べている。

つまり、第49回スーパーボウルで激しいヒットを受けてよろけたワイドレシーバー(WR)ジュリアン・エデルマンは、脳しんとうの診断をクリアして復帰を許可されたが、その場面で彼は除外されていたことになる。試合後にエデルマンが明かしたように、実際は試合序盤に股関節を負傷したのが原因だったとしても、だ。頭部にケガがなかったとしたら、彼を試合から外すことは非難されていただろうか。当然、怒りの声が上がっていただろう。

リーグと選手会は意図しない結果をできるだけ抑えられるような文言を見つけるだろう。しかし肝心なのは、脳の健康を保つという名目で選手が休養することに、人々はもっと慣れるべきかもしれないということだ。たとえ、乱れの原因が別のケガにあったとしても、選手が除外されるという犠牲を払うことになったとしても。そのためには、人々が試合に見出す価値を大きく転換する必要があるだろう。

シルズ医師は不安定さを見せる選手について「私たちの目標は彼らを退場させ、プレーさせないことだ」と述べた。

タゴヴァイロアとマイアミ・ドルフィンズは、先週の日曜日に動きが乱れた原因が背部のケガにあり、脳しんとうの診断をクリアしたからこそ木曜夜の試合への出場が許可されたのだと強調している。

とはいえ、どれほど厳密なプロトコルであっても、常識の必要性は排除できないだろう。タゴヴァイロアはただ不安定だったわけではない。彼は頭部を強打していた。その影響を取り除くために頭を振っていた。チームメイトは膝から崩れた彼を支えなければならなかった。そんなタゴヴァイロアはロッカールームで脳しんとうの診断をクリアし、背中の負傷だと説明されている。

チームドクターと外部の神経外傷コンサルタント(UNC)――多くは神経外科医や神経学者で、地元の脳神経外科の医長である場合も多い――はタゴヴァイロアが試合に戻っても安全だと同意した。プロトコルの補足文書には、最終的な判断はチームドクターの責任だと記されているが、シルズ医師はこうした判断は常に――常に――全会一致になる必要があると強調している。

何が問題だったのかは、調査が終了するまで分からない――タゴヴァイロアは今週、面談を受ける予定だ。プロトコルが完ぺきに守られていた可能性も十分にある。だからといって、その結果が正しいとも限らない。

NFLは調査の結果を明確に示すと誓っており、そうした医師らがどのように結論に至ったかを知るのは重要だ。NFLPAは土曜午後までに十分な情報を得たと断定している。それにより、タゴヴァイロアの診断に関与したUNCを解雇する権利を行使したのだ。NFLPAはUNCが自分の役割を理解せず、調査過程で敵対的な態度をとったことなどを解雇した要因として挙げたと『NFL Media(NFLメディア)』が報じている。

プロトコル変更に関して詳細に議論がされている一方で、タゴヴァイロアの状況はサイドラインに浸透している考え方の検証を強いるものでもあるはずだ。フットボールでは――スポーツ全般に言えることだが――健康状態が良く、機能障害が見られない場合、選手をできるだけ早くフィールドに戻すことが既定路線となっている。先週日曜日、慎重を期するために後半を欠場していれば、実際に起きてしまった出来事よりもはるかに良い結果になっていただろう――日曜日に試合に復帰し、次の試合でも出場を許可されたタゴヴァイロアは、木曜日に深刻な頭部の負傷に見舞われており、これは日曜日に受けた打撃によって深刻化した可能性があると見られている。長いシーズン、そして願わくは長いキャリア、長い人生だ。1試合だけでも、1シーズンだけでもなく、選手を守るというのが多くの人々の目標になる。脳損傷に対する考え方は彼の将来をも守るものだ。たとえプロトコルが順守されていたとしても、先週日曜日にタゴヴァイロアを試合に戻す決断をした人たちは皆、彼を困難な状況に追いやり、自分たちの使命を果たせていない。

選手はほとんど常にプレーすることを強要され、一部のコーチは選手だけではなく医師にもプレッシャーをかけているはずだ。選手は大人であり、自分たちのケアについて発言権を持たなければならない。だが、選手たちを守るために背中を押してくれる大人も周囲にいなければならない。タゴヴァイロアのいたロッカールームに、そうした人たちはいたのだろうか。肋軟骨を負傷したQBジャスティン・ハーバートが痛みを覚えて正常に動けなくなったとき、ロサンゼルス・チャージャーズのヘッドコーチ(HC)ブランドン・ステイリーがなぜ出場を止めなかったのかという疑問が噴出した。特に、先週の試合終盤に敗北が確定している状況でもなおハーバートを出場させたことについては批判が集まっている。ハーバートは保護されるべきだった。頭部の問題が絡んでいたタゴヴァイロアはなおのことだったと言えよう。

NFLとNFLPAは恐ろしい打撃やケガがあれば方針を変更するという、不快な行動パターンを身につけてきた。2011年、QBコルト・マッコイが試合でヘルメットからヘルメットへのヒットを受け、一度も脳しんとうの検査を受けずに復帰した後、脳しんとうプロトコルが作成されている。2017年にQBトム・サベージが陰惨なヒットを受けた後に復帰し、調査によってプロトコルは守られていたが欠陥があったとされた後、頭部へのヒットを見分けるための変更が行われた。今度はさらなる変更――非常に異例なことに、シーズンの途中で制定される――がタゴヴァイロアの負傷をきっかけに行われようとしている。

一方で、脳しんとうの評価方法がはっきりするまでは、主観的に判断されるだろう。精査すべきは医師による判断だけではない。選手の安全という名の下に、全員がどれほど慎重に判断できるかも重要だ。

【RA】