コラム

NFLのeスポーツへの参入は加速するか

2016年12月03日(土) 08:38

ジャクソンビル・ジャガーズの本拠地エバーバンク・フィールド【Matt Patterson via AP】

ジャガーズが本拠地エバーバンク・フィールドにeスポーツのメジャー大会招致のため、スポーツマーケティング企業ワッサーマンと契約したことが明らかになった。NFLチームがeスポーツへの参入することが認められたのは初だと見られる。

急成長するeスポーツとは

eスポーツとはエレクトロニックスポーツの略で、複数のプレーヤーによって行われるコンピューターゲームやビデオゲームを“スポーツ”として捉えたものの総称だ。1980年代に登場し、近年では賞金が出る大会やリーグも増え、なかには賞金総額が10億円を超える大会まである。さらに1億円以上の賞金を稼ぐプロプレーヤーも出現しているほどだ。

ゲーム産業のマーケットリサーチ企業『Newzoo』社が2015年に発行したeスポーツ産業白書“The Global Growth of Esports(ザ・グローバル・グロース・オブ・イースポーツ)”は、2017年には世界全体の総収益は4億6300万ドル(約482億円)に達すると予想している。まさに現在急成長中なのだ。

続くスポーツ界からの参入

そんなeスポーツに対し、リアルなスポーツ業界からの参入が特に今年になって続出している。3月にMLBニューヨーク・ヤンキースを今シーズン半ばに引退したアレックス・ロドリゲス氏や元NBAスター選手シャキール・オニール氏などのグループが2つのeスポーツチームをマネジメントする企業への出資を発表。9月26日にはプロバスケットボールNBAのフィラデルフィア・76ersがTeam Dignitas(チーム・ディグニタス)とApex Gaming(エイペックス・ゲーミング)という2つのeスポーツチームを買収した。さらにその翌日には元NBAのスター選手で現在MLBロサンゼルス・ドジャースのオーナーの一人であるマジック・ジョンソン氏や、やはりドジャースのオーナーの一人でNBAゴールデンステート・ウォリアーズも所有するピーター・ガバー氏などのグループが別のeスポーツチームを傘下に収めている。

さらにヨーロッパでは英マンチェスター・シティやウェストハム独FCシャルケやといった有名サッカークラブによるeスポーツのチームや選手と契約が続く。日本でもJリーグの東京ベルディが参入済みだ。

なぜスポーツ界からの参入が一種のトレンドとなっているか。いくつかの要因がある。まず挙げられるのが、eスポーツの主要ファン層が18歳から34歳の若者であることだ。eスポーツを通じてチームやリーグに親しみを持ってもらうことで、若いファンの取り込みが望めるのである。さらにeスポーツの世界はまだ黎明(れいめい)期にあり、大会やリーグが乱立している状況で、チームの運営も安定していない。そこに実際のスポーツでの運営経験を生かすことができるのではないかと考えられているのである。

意外なNFLの出遅れ

ではNFLはどうか。NFLを扱ったゲームというとアメリカでは“マッデンの呪い”でも有名な“マッデン”シリーズが絶大な人気を誇る。その人気を受け、今年6月に行われた“マッデン NFL 2016チャンピオンシップ”はスポーツ専門局『ESPN2』で放送され、19万7,000人が視聴したという。

ただeスポーツが実際のスポーツテレビ中継などからファンを奪うのでないか、との懸念を持つスポーツ関係者も依然多い。NFLもそうした意見が強いようで、7月に通信社『Bloomberg(ブルームバーグ)』が少なくとも3つのNFLチームがマッデンのプレーヤーとの契約を検討していると報じたものの、実際にチームが動いたのは今回のジャガーズが初となっている。

参入先駆者、サフォルド

その一方でNFLにはeスポーツ参入の先駆者ともいえる存在がいる。ラムズで2010年の入団以来先発の座を維持し続けているガード(G)のロジャー・サフォルドだ。サフォルドは2014年4月にFPSと呼ばれる一人称視線射撃対戦ゲーム“コール・オブ・デューティ”を専門とするeスポーツチーム、ライズネーションを買収、以降チームオーナーに就いているのである。

サフォルドがESPNに語ったところによれば、NFL入りと同時にゲームに興味を持ったのだという。そして2013年にeスポーツの大会に参加してeスポーツという成長分野にビジネス面でも惹かれたのだとか。その経緯についてサフォルドは「eスポーツが成長していることに気づいた時に興味を持ち始めたんだ。(ゲーム動画を配信する)インターネットのTwitchで彼らを見た。巨大イベントになっているのを見て“OK、これに乗り込む必要がある”と思った」と語ったということだ。

さらにプロフットボールの経験とeスポーツのチームオーナーであることは関連づけられるとも明かし、「リーダーであること、動きを磨くこと。常に適切な計画を立てることで貧弱なパフォーマンスを避けられる」と話している。また、所属するプレーヤーたちからの質問を受け、アドバイスを送ったりもしているという。9月にロサンゼルスで開催された“コール・オブ・デューティ”の世界大会にもチームに帯同したそうだ。

「今、成長を続け、正しい方向に向かっているのを見て、挑戦をし続けようと思う」と話すサフォルドの言葉はまさにスポーツのチームオーナーのそれである。

急成長が続くeスポーツに対して、NFLがどのように向かい合い、どのような動きが出るか、興味はつきない。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。