コラム

迷走するジェッツのQB構想

2016年12月10日(土) 11:56

ニューヨーク・ジェッツのライアン・フィッツパトリック【AP Photo/Seth Wenig】

“恥ずべき敗戦”

こんな見出しがニューヨークのメディアを賑わした。ジェッツ(3勝9敗)が第13週のマンデーナイトゲームでコルツに10対41と大敗し、プレーオフの望みが数字上も完全に潰えた日のことだ。

先発クオーターバック(QB)ライアン・フィッツパトリックは前半に12試投でわずか5回のパス成功、81ヤード1被インターセプトという不調でベンチに下げられた。後半からは2年目のブライス・ペティを投入したが、こちらも25試投中で半分にも満たない11回のパス成功、2インターセプトと振るわなかった。

先発QB交代を声高に叫んでいたジェッツファンもこれでは鳴りを潜めるしかない。一体誰に期待すればいいのか。そんな諦めがため息になって聞こえそうだ。

試合後、ヘッドコーチ(HC)トッド・ボウルズは最終4試合にペティを先発起用させると発表した。来季以降の戦力となるべきペティに実戦経験を積ませるのが目的だ。しかし、これが今のジェッツのとるべき方法なのかは疑問だ。

今季、フィッツパトリックが不振を理由に下げられるのは2回目だ。第6週のカーディナルズ戦でやはり途中交代を告げられ、このときはジーノ・スミスが出場した。しかし、スミスは次戦のレイブンズ戦で膝の靭帯を断裂して今季絶望。再びフィッツパトリックが先発の座を与えられた。

今季1年契約でプレーしているフィッツパトリックが再契約を提示される可能性は極めて低く、シーズン後の退団は決定的だ。では、ペティが来季の戦力構想の中心にいるかというと、必ずしもそうではないだろう。

ジェッツにはもうひとり、新人のクリスチャン・ハッケンバーグが在籍する。今シーズンはNFLのシステムを学ぶことを第一目標としているため、一度も出場登録されていない。プレシーズンで2試合の出場があるが、パス成功率は50%にも満たず、実戦投入にはほど遠い。

問題なのはジェッツのQB構想が見えてこないことだ。去年はペティを、今年はハッケンバーグをそれぞれドラフト指名した。その一方でスミスをチームに残し、昨季チーム記録となる31タッチダウンパス成功をマークしたフィッツパトリックとはシーズンイン直前になってようやく再契約した。一体誰を中心にオフェンスを作ろうとしているのかが分からないのだ。

ハッケンバーグは2巡という早いラウンドでドラフト指名を受けているだけに、将来の先発としての期待度は高いはずだ。だからこそ今年は実戦投入を急がずにじっくりと育成期間に充てたのだ。では、残り4試合でペティを先発起用する意味はどこにあるのか。

来年のオフにペティとハッケンバーグ、スミスでポジション争いをさせるという計画はあるだろう。去年のドラフトのときにはすでにフィッツパトリックはトレード入団しており、ペティは第3QBとしてドラフト4巡で指名された。この時点でペティはあくまでもバックアップとして育成する予定だったと考えられる。でなければ今年のドラフトでハッケンバーグを獲得する意味がないからだ。

来年からハッケンバーグを先発起用する可能性があるのなら、彼にこそ実戦経験を積ませるべきだ。この時期に来てまだ彼がその段階にないというのなら、2巡という貴重な指名権を使った意義が見いだせない。

もうひとつ重要な要素がある。それはボウルズHCが来季も指揮をとる保証はないということだ。まだ2年目だが、昨季は10勝6敗と、あと一歩でプレーオフ出場を逃した。今年にかかる期待が大きかっただけに、責任をとらされることは十分に考えられる。そうなればQB構想は完全な白紙に戻される。

ジェッツは6年間プレーオフから遠ざかっている。かつては打倒ペイトリオッツの旗頭と期待されたが、現在ではドルフィンズやビルズの後塵を拝する状況だ。計画性のないQB構想はポストシーズンをさらに遠ざけてしまうことになる。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。