コラム

ついに首位陥落、バイキングスの巻き返しなるか

2016年12月01日(木) 12:16


ミネソタ・バイキングスのサム・ブラッドフォード【AP Photo/Jim Mone】

わずか40日前まで、バイキングスはNFLで唯一全勝のチームだった。しかし、第12週は同地区ライバルのライオンズに13対16で敗れてついに開幕から維持していたNFC北地区首位の座から落ちてしまった。

現在6勝5敗、NFCでは同率7位の成績だ。プレーオフのボーダーラインにいる状況だが、この成績だけを見るとミスリードに陥る。第6週のバイウイーク後に1勝5敗であることを考えるとその不振は深刻だ。

バイキングスに代わってトップの座に就いたライオンズ(7勝4敗)には今季すでに直接対決で2敗。つまり、タイブレークで有利な条件を持つライオンズと地区優勝やプレーオフを争うと仮定した場合、勝ち数で上回らなければならない。残り5試合しかない中でこれは難しい。

バイキングスの低迷の理由はいくつか挙げられる。オフェンスライン(OL)に続出する故障もその一つだ。マット・カリル、ジェイク・ロング、アンドレ・スミスがすでに戦列を離れ、ライオンズ戦ではジョー・バーガーとジェレマイア・サーレスも故障退場した。オフェンスの土台であるOLが毎試合異なる組み合わせになるのでは戦力は安定しない。

もっと深刻なのはプレーメーカーの不在だ。ここぞという時にビッグプレーを決めて試合の流れを作るべき選手がいないのだ。本来ならばランニングバック(RB)エイドリアン・ピーターソンがその役割を担うのだが、第2週で半月板を損傷した後、現在まで復帰の見込みが立っていない。マット・アシアタ(90回のキャリーで287ヤード、5タッチダウン)とジェリック・マキノン(106回、316ヤード、1タッチダウン)が代役を務めるが、相手の守備コーディネイターを脅かす存在ではない。

クオーターバック(QB)サム・ブラッドフォードは71.3%のパスを成功させ、被インターセプトも3と少ないが、ショートパスが中心のため、必ずしも効率は良くない。エンドゾーンに到達するまでに時間がかかるだけではなく、反則やQBサックなどでロスした場合のダメージが大きい。ファーストダウンが更新できずにパントやフィールドゴールで終わるケースが多くなるのだ。

レシーバーではワイドレシーバー(WR)ステフォン・ディグスの活躍が目覚ましいが、オフェンスが脅威となるためには少なくとも3人のビッグタイムレシーバーが必要だ。タイトエンド(TE)カイル・ルドルフやWRアダム・シエレンにその期待がかかるが、まだ結果を出し切れていない。

シーズン途中で辞任したノーブ・ターナーの後を継いで攻撃コーディネイターに就任したパット・シャーマーは昨年までイーグルスでチップ・ケリーのアシスタントコーチを務めていた。ブラッドフォードもイーグルスでプレーしていたため、ケリー直伝のアップテンポなオフェンスを導入している。

ブラッドフォードが素早くボールをパスして、キャッチしたレシーバーがランアフターキャッチで距離を稼ぐパターンだ。QBのリリースが早いためにパスラッシュのプレッシャーを受けにくく、OLの負担は軽減される。

ブラッドフォードのコントロールもいいため、パスは通るのだが、それがビッグプレーに結びつかない。ここが喫緊の課題だ。

QBテディ・ブリッジウォーターやピーターソンを欠きながら開幕5連勝を飾った背景にはディフェンスの強さがあった。そのディフェンスは今で失点が1試合平均17.5点でリーグ2位の好成績だ。しかし、得点が平均19.8点ではちょっとしたディフェンスのミスで勝ちを逃してしまう計算だ。

残りのスケジュールは第13週のカウボーイズ戦以外は勝ち越しのチームとの対戦がない。その意味では十分に巻き返すチャンスはある。そのためにはオフェンスを中心としたビッグプレーが不可欠だ。

アップテンポなオフェンスの導入など、随所に工夫が施されてはいるが、まだ成果を上げるには至っていない。ダウンフィールドのパスの多用などさらなる挑戦が必要だろう。ただし、捲土重来に残された時間は多くない。バイキングスは正念場の12月を迎える。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。