コラム

ドラフトの高視聴率と人気向上への努力

2017年05月05日(金) 11:47

2017年NFLドラフト【AP Photo/Julio Cortez】

現地先月27日から29日まで開催された2017年NFLドラフト。開催地フィラデルフィアではドラフト史上最高の25万人の観客動員を記録した。同時にテレビ中継も成功を収めている。

スポーツ専門局『ESPN』は“ESPN“と”ESPN2“の2チャンネルで3日間にわたって生中継を行った。その平均世帯視聴率は2.86、平均視聴者数は310万人に達し、どちらも昨年を上回っている。やはり注目度が高かったのは1巡指名が行われた初日の27日で、平均視聴者数は690万人だった。

興味深いのがこの27日の18歳から49歳のケーブル視聴率だ。2.8は全ケーブル番組中トップである。同時刻に放送されたプロバスケットボールNBAのプレーオフは1.1とNFLドラフトが2倍以上の差をつけて圧倒し、プロアイスホッケーNHLのセミファイナルが0.6、実に4倍も上回っているのだ。

一方、NFL傘下でNFL専門局である『NFL Network(NFLネットワーク)』もドラフトを完全生中継しており、こちらも同局のドラフト中継史上最高記録を更新している。3日間の平均世帯視聴率は0.94、平均視聴者数は150万人でいずれも史上最高であり、平均視聴者数は昨年より18%も増えた。初日の平均視聴率は1.52、平均視聴者数は250万人でどちらも昨年より20%以上も増加している。さらに4巡から7巡の指名が行われた3日目も平均視聴率は0.59、平均視聴者数が90万2,000人となり、これも昨年を上回った。

ESPN系列の2チャンネルとNFLネットワークを合わせた平均視聴者数は460万人で、これは2014年に次ぐ史上2番目の数字となっている。

ちなみに地域別で最も視聴率が高かったのは全体1位指名でマイルズ・ギャレットを指名したブラウンズの本拠地クリーブランド。クリーブランドは2年連続でトップだった。低迷が続く中、ファンがドラフトにいかに期待を寄せていることが分かる。2位は開催地フィラデルフィアとオハイオ州デイトンだった。フィラデルフィアは昨年を上回ったということだ。

さらにドラフトへの注目はネットを通じても広がっている。NFLの発表によれば3日間でドラフトの生配信が昨年より33%増の190万デバイスから計1億1,950万分視聴されたということだ。1デバイスあたり61.4分の視聴があったことになる。さらにソーシャルメディアの『Facebook(フェイスブック)』、『Twitter(ツイッター)』、『Instagram(インスタグラム)』では3日間にドラフトに関する投稿が1,180万回に上った。これは昨年比15%増だ。

さて、NFLドラフトはどうしてここまで人気のコンテンツになったのだろうか。それはNFLが中継を意識した不断の努力を続けてきた結果だ。

ドラフトはESPNによって1980年から生中継されるようになった。1995年には会場がニューヨーク市内のマディソン・スクエア・ガーデンにある劇場に移され、以降、集客イベントの形がとられるようになる。そして上位指名有力選手が会場に招待され、指名されるとステージに登場し、コミッショナーから祝福を受けるという番組受けする演出が定着したのだ。

今年の場合、ベアーズから全体2位指名を受けたノースカロライナ大学出身のクオーターバック(QB)ミッチェル・トゥルビスキーなど22人が会場に招待されたが、今年はさらにアラバマ大学のニック・セイバンなど、選手を送り出す側である大学の有名ヘッドコーチ22人が招待され、指名を待つ選手たちに寄り添うといった新たな演出も行われている。

また“ウォールーム”と呼ばれる各チームのドラフト対策室にカメラが入り、コーチやスカウトの切迫した様子を中継する取り組みも顕著だ。今回の場合、20チームのウォールームにカメラが入っている。

次に中継の魅力を上げるために行われた改革は日程の変更だった。2010年からそれまで土日の2日間に行われていたのを木金土の3日制に変更、さらに1巡指名の木曜日と2巡および3巡の金曜日に関してはアメリカ東部時間の夜開始としたのである。これはもちろん在宅率が高く高視聴率の望めるプライムタイムの中継を意識したものだ。

またどうしても1巡よりも注目度が下がる2巡以降に関しても盛り上げのための演出が行われている。今回の場合、2日目の2巡と3巡に関しては、ブラウンズであれば元ランニングバック(RB)ジム・ブラウンと元ワイドレシーバー(WR)ジョシュ・クリブスといったように、そのチームの過去の名選手が指名を読み上げるといった方法が実施された。

3日目に関しては会場以外の場所からの指名読み上げという演出も行われている。例えばベアーズの場合、RBジョーダン・ハワードが米軍人と共にチーム本部内のハラス・ホールから読み上げを行った。中にはコルツのようにインディアナポリス動物園での読み上げといったものまであったのである。

こうした演出について、「なぜNFLと関係ないような動物園で?」といった不満も一部の熱心なファンからは出ているようだ。ただカジュアルなファンに対して、NFLドラフトへの関心を高めるという意図においては有効な手段だといえるかもしれない。

このような努力によってNFLドラフトはここまでの人気となっているのである。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。