コラム

評価されるも、課題が残ったブラウンズのドラフト戦略

2017年05月04日(木) 09:45

全体1位指名でのマイルズ・ギャレット獲得に沸くクリーブランド・ブラウンズのファン【AP Photo/Julio Cortez】

今年のドラフトは4月27日から29日にかけてフィラデルフィアで開催され、計253選手が指名を受けた。ディフェンス選手にタレントが揃うという前評判だったが、オフェンスのスキルポジションも多く上位指名を受ける展開となった。

いきなりトレードアップして1巡目全体2位でミッチェル・トゥルビスキー(ノースカロライナ大学)を指名したベアーズがクオーターバック(QB)獲得競争を刺激し、これが後の目まぐるしいトレードアップ&ダウンを招いたことは間違いない。

その中で全体1位指名を持っていたブラウンズのドラフト戦略は評価されている。昨年は1巡指名権をイーグルスとトレードして、カーソン・ウェンツ指名の機会をわざわざ譲ってしまったことが批判された。今年もQBが必要なチーム状況は変わらず、2つ持っていた1巡指名をどう使うかに注目が集まった。

ブラウンズファンが最も心配していたのは貴重な1巡指名権を育成の難しいQBに行使して、無駄にしてしまうことだ。過去の1巡指名ではティム・カウチ(1999年)、ブレイディ・クィン(2007年)、ブランドン・ウィーデン(2012年)、ジョニー・マンゼル(2014年)で痛い目を見ている。QBの1巡指名にナーバスになるのも無理はない。

ブラウンズの1巡指名はまず1位指名でディフェンシブエンド(DE)マイルズ・ギャレット(テキサスA&M大学)を獲得し、さらに全体12位指名権をテキサンズの25位と交換してセーフティ(S)ジェイブリル・ペパーズ(ミシガン大学)を指名するというディフェンス主導の堅実なものだった。

これだけでは終わらず、1巡終盤にはトレードアップしてパッカーズの29位指名権を譲り受け、タイトエンド(TE)デイビッド・エンジョク(マイアミ大学)を指名した。

ギャレット指名は最も理にかなっている。彼の加入によりパスラッシュは強化されることが期待され、昨季チームトップの5.5サックをあげたエマニュエル・オグバーとのコンビも楽しみだ。

ペパーズも即戦力の人材で、ギャレットと共に将来のブラウンズディフェンスを担う柱となることが期待される。エンジョクの獲得はパスオフェンス強化の目的がある。

ブラウンズがQBを指名したのは2巡目だった。全体52位でノートルダム大学のデショーン・カイザーを指名した。ここが課題の一つだ。カイザーは過去2年間名門ファイティングアイリッシュの先発QBを務めたが、好調だった2015年に比べ昨年はパスの精度を欠いた。2巡指名とはいえ、ブラウンズは賭けに出たと言っていい。

ブラウンズのQB構想は今年も迷走気味だ。このオフはテキサンズとのトレードでブロック・オズワイラーを獲得した。これでチームにはコディ・ケスラー、ケビン・ホーガン(ともに2年目)を合わせて計4人がロースターに名を連ねる。経験ではオズワイラーが一歩リードするものの、他の3人はどれも傑出した存在とは言い難い。唯一カイザーだけが将来性という不確実な潜在能力に期待を抱かせるだけだ。しかし、この期待はこれまでにいくつものチームを裏切ってきたことか。そして、ブラウンズも何度も苦い思いをしてきた。

ヒュー・ジャクソンHCの得意分野はパスオフェンスだ。残念ながら4人のQBは彼の下で成功を収めたジョー・フラッコ(レイブンズ)やアンディ・ドルトン(ベンガルズ)に匹敵するパサーではない。ここにジャクソンとQBたちのミスマッチが存在する。

さらに言えば今年のドラフトではワイドレシーバー(WR)を指名しなかったことも疑問だ。ブラウンズの昨季のトップレシーバーはQBから転身したテレル・プライアーである。ジョシュ・ゴードンは依然として出場停止処分中で、NFLへの復帰すらままならい状態だ。すでに今オフにレッドスキンズへと移籍したプライアーと肩を並べるクラスのWRがブラウンズには不可欠と言える。

実質的なGMのサシ・ブラウンは「今ドラフトでは将来長きにわたってブラウンズで活躍してくれるであろう選手を多く獲得した」と自信を深める。確かにカイザーやDEラリー・オーガンジョビー(3巡、ノースカロライナ大学シャーロット校)のように育成対象の選手が指名された。ただし、ジミー・ハズレム球団オーナーは気が短いという事実を忘れてはならない。

ハズレムがチームを買収した2012年以降、2年を越えてチームを指揮したHCはいない。ハズレムは早期の結果を求めるオーナーなのだ。「じっくりと選手を育てて、3年後にプレーオフを」など度悠長なことは言っていられないのだ。

これはブラウンと2年目のジャクソンにとっては大きなプレッシャーだ。1巡指名の3人は開幕から先発として活躍することが可能だろう。しかし、肝心のQBが安定しないのでは長い低迷期から脱出することはできないかもしれない。

1勝しかできなかった昨年を下回る成績にはさすがにならないだろうが、まだ勝ち越しできるほどのチーム力はない。明らかな成長の跡が見られないとまたも首脳陣の一新という事態もあり得る。

過去のドラフトに比べれば安定感のある堅実な指名だった。とはいえ、ブラウンズの置かれている厳しい状況は依然として変わっていない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。