コラム

低迷期脱出へ、マクダーモット体制を固めるビルズの方向性の是非

2017年05月13日(土) 09:58

バッファロー・ビルズ【Kevin Terrell via AP】

ビルズは空位だったジェネラルマネジャー(GM)職に前パンサーズのアシスタントGMだったブランドン・ビーンを雇用したと発表した。この季節外れのGM獲得はショーン・マクダーモット新ヘッドコーチ(HC)の権限を拡大させようとするチームオーナーの意向が大きく反映されたものだ。

ビルズが前GMダグ・ウェイリーとそのスカウティングスタッフを突如解雇したのはドラフトが終了した翌日の4月30日のことだった。GMが手腕を発揮するはずのドラフトがそのままウェイリーの最後の仕事となったのだから皮肉なものだ。

もっとも、ウェイリーが今年のドラフトに於いてどこまで本当の仕事をさせてもらったかは疑問だ。なぜならこの時すでにウェイリーは“お飾り”に過ぎず、実質的な人事権はマクダーモットが掌握していたからだ。

マクダーモットは昨シーズン最終週に解任されたレックス・ライアンの後釜としてHCに就任。昨年までパンサーズの守備コーディネイターを6年間務め、42歳で初のHC職である。

本来なら新HC選びはGMの職務である。ところが、マクダーモット登用にはウェイリーではなく、テリー・ペギュラ球団オーナーの意向が強く働いていたとされる。この時点ですでにペギュラはウェイリーに見切りをつけ、マクダーモットが大きな権限を持つチーム運営を計画していたと考えられる。

ウェイリーがGMに就任したのは2013年。ペギュラが前オーナーであるラルフ・ウィルソンの死去後にチームを買収する1年前だ。GM職にあった4年間でビルズは30勝34敗の成績だった。彼の就任前に比べると勝ち星は増えたが、1999年シーズンを最後に遠ざかっているプレーオフには届かなかった。

それだけでなく、彼の在任時にHCとなったダグ・マローン、ライアンと意見の食い違いが多く、チーム方針が統一されないという事態も招いた。彼が実権を握ったドラフトやフリーエージェント(FA)では成果が今ひとつあがらないとの批判があった。

これらを考慮すればウェイリー解任はまだ理解できる。しかし、ペギュラはなぜここまでHC未経験のマクダーモットに肩入れするのだろうか。

NFLでは過去にGMとHCが人事権を巡って権力争いを展開し、それがチームの低迷を招いた例が多い。そこでオーナーたちはどちらか(ほとんどの場合はGM)に人事権を与え、HCは現場の最高責任者として役割のすみわけを明確化することで不要な確執を避ける努力をしている。1990年から2000年代前半にかけてはHCがGMを兼任する例がいくつかあったが、どれもうまくいかずに現在ではその例はない。

ところが、ペギュラはその時代の流れに逆らうかのようにマクダーモットに権限を集めようとしている。繰り返しになるが、HC未経験の人材にここまで発言力を与えるのは異例中の異例だ。

この裏にはマクダーモットを抱き込むことによってチーム運営に自らの力をより強く反映させたいとするペギュラの思惑が見え隠れする。思えばペギュラがオーナーとなってからのHCは必ずしも彼にとって操りやすい人材ではなかった。

マローンは自身にとっては2年目、ペギュラ体制では1年目の2014年に10年ぶりとなる勝ち越し(9勝7敗)シーズンを実現させたが、シーズン後にあっさりと辞任してしまった。これではまるでペギュラのオーナーシップに嫌気がさして退団したような印象を与える。

次いでHCに就任したライアンはクセのある人物で、口ではペギュラに忠誠を誓う割に独断でチーム運営を行い、昨年は双子の弟のロブをアシスタントコーチとして参入させるに至った。それも結果にはつながらず、2年で職を追われている。

このような経緯からペギュラは自らの意向で雇用したマクダーモットHCに権力を持たせ、自分の思い通りに操ろうとしているのではないか。このオフの動きを見ているとそのように思えて仕方がないのである。

17年もの間、プレーオフから遠ざかっているのはNFLのみならず北米のプロリーグでは最も長いスランプだ。NHLのセイバーズのオーナーでもあるペギュラがこうした事実を知らないはずもなく、また看過できるわけもない。いよいよ自身が手腕をふるうべき時と判断し、自分の思い通りとなる体制を組んだと考えるのはうがちすぎだろうか。

いずれにせよ、21世紀に入ってプレーオフ出場を経験していない唯一のNFLチームであるビルズだが、かつては4年連続でスーパーボウルに出場した輝かしい栄光のあるチームだ。オーナーの独裁であろうとHCへの権力の一極集中であろうと、低迷期を脱するのであればそれをあえて選択するのは必ずしも間違った方策ではないのかもしれない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。