コラム

キャパニックに新天地? シーホークス移籍説が浮上

2017年05月20日(土) 08:41

サンフランシスコ・49ersのコリン・キャパニック【AP Photo/Lynne Sladky】

49ersからリリースされてフリーエージェント(FA)となっているクオーターバック(QB)コリン・キャパニックの移籍先にシーホークスが急浮上だ。

発端はヘッドコーチ(HC)を務めるピート・キャロルが5月中旬に地元ラジオ局のインタビューでラッセル・ウィルソンのバックアップとしてキャパニック獲得を考えていると述べたことだ。

「あらゆる可能性を探っている」と前置きしながらもキャロルはキャパニックや同じくFAで移籍先の決まっていないロバート・グリフィン三世が、そのプレースタイルからウィルソンのバックアップの人材にフィットすると述べたとされる。

これにディフェンシブエンド(DE)マイケル・ベネットも呼応した。「キャパニックがシーホークスで第2のチャンスを与えられるなら素晴らしいことだと思う。こういう挑戦を過去に何度もやってきたキャロルコーチがいるし、このチームのオーナーはすべての人に寛大だ」と別の地元ラジオに語った。

シーホークスは同地区ライバルとしてキャパニックを他のチーム以上によく知る。確かに脚力を生かしたプレースタイルはリードオプションを使用する彼らのオフェンスに合う。シーホークスがウィルソンと同様にランとパスで貢献できるバックアップを探していたのも事実だ。

現在の2番手QBトレボン・ボイキンは3月にマリファナ所持で逮捕されたばかり。もう一人の控えであるジェイク・ヒープは2015年にドラフト外でNFL入りした選手だが、いまだ出場記録がない。

このような状況でキャロルは新たなバックアップ人材が必要と考えているのだろう。昨年もバックアップ問題には悩まされた。ウィルソンは昨季開幕戦で右足首をねん挫し、さらにその2週間後にも左膝の靱帯を痛めた。ウィルソンは欠場することなく先発出場を続けたが、本来なら戦列を離れてもおかしくないほどの重傷だったとも伝えられる。

結果的に昨年のウィルソンはボールキャリー数、ラッシング距離でキャリア平均を大きく下回る成績となった。安心して1、2試合を任せられる存在がいればウィルソンを休ませてケガからの回復に時間をあてられたはずだ。

先発経験もあり、ランプレーも得意なキャパニックがバックアップにいればと考えるのはファンタジーフットボールの世界に近いのかもしれないが、決して非現実的でもなくなってきた。

もちろんいくつかの障害もある。キャパニックが昨季から突然始めた人種差別への抗議行動もその一つだ。試合前の国歌斉唱の際にチームの列に参列しない、または片膝をつくという行為そのものはリーグ規律に違反するものではない。しかし、セレモニー参加へのボイコットともとれるその行動が批判を浴びたのも事実だ。

こうした選手は敬遠されやすい。それがキャパニックが現在までどのチームとも契約できていない理由のひとつにもなっているかもしれない。もっとも、ベネットが言うようにキャロルは“清濁併せのむ”度量を持つHCで、クセのある人材の操縦に長けている。ベネット自身もキャパニックに賛同して抗議行動を行う一人でもある。

最大の問題はキャパニックのパス能力だ。ウィルソンが高く評価され、また2012年のデビュー以来、毎年シーホークスをプレーオフで少なくとも1勝をあげるチームに仕立て上げたのはパスの能力が高いからだ。ウィルソンのパス成功率はキャリア平均で64.7%だ。一方のキャパニックは60%にわずかに届かない。シーホークスのように毎年プレーオフに出場し、スーパーボウルをかけて厳しい戦いに直面するチームにとってQBのパス成功率における5ポイントの差は大きい。

ただし、先発として起用するのではなく、あくまでもバックアップとしてチームに置くのであれば面白い存在となりそうだ。キャパニックをランのシチュエーションでスポット起用するだけでディフェンスを混乱させることは可能だ。キャパニックでリードオプションを見せておいて、その次にウィルソンが同じプレーをフェイクに使ってプレーアクションパスを展開すれば効果は倍増だろう。

キャロルも懸念していることだが最大の難関はキャパニックの年俸とシーホークスのサラリーキャップだ。だが、それらがクリアされるのであればシーホークスのキャパニックは面白い存在になりそうだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。