コラム

注目される3つのストリーミング契約

2017年05月21日(日) 09:15

【2013年11月6日、AP Photo/Richard Drew, File】

NFLが立て続けに3つの動画ストリーミング契約を結び、注目を集めている。

現地4月4日にまず発表されたのが日本でもネット通販などで知られる『Amazon(アマゾン)』との契約だ。今シーズンのサーズデーナイトフットボール(TNF)10試合をアマゾンがライブストリーミングするというものである。

この契約内容は昨年ソーシャルメディア大手『Twitter(ツイッター)』が契約、実施したライブストリーミングとほぼ同じ内容だ。アメリカで対象10試合の中継を行うのはアマゾンだけでなく、地上波で『NBC』もしくは『CBS』が、加えてNFL傘下の『NFL Network(NFLネットワーク)』がケーブルおよび衛星放送で放送する。さらに携帯電話会社『Version(ベライゾン)』も自社契約スマートフォン向けにストリーミングの権利を持つ。つまりアマゾンは第3、第4の視聴方法という位置づけになるのだ。

それゆえ、10試合の配信ながら配信権料はテレビの放映権料に比べれば格段に低い5,000万ドルと見られている。ただこれは昨年ツイッターが支払ったとされる1,000万ドルの実に5倍だ。これほど高騰したのは昨シーズンの配信が平均350万人の視聴者を獲得し、そのうち55%は25歳以下で若者層のファン拡大という点で成功を収めたことが大きい。さらに今回の契約交渉ではアマゾン以外にツイッターや『Facebook(フェイスブック)』、『YouTube(ユーチューブ)』などが競合したとも言われている。

アマゾンによる配信は日本でも行われている有料サービス“アマゾン・プライム”の会員向けとなっているのが特徴だ。今回の配信により有料会員を増やす狙いがあると見られいる。

続く5月3日に発表されたのがベライゾンとのライブストリーミング契約だった。これは第3週、9月24日にイギリス・ロンドンで開催されるインターナショナルシリーズ、レイブンズ対ジャガーズを自社契約スマートフォンや傘下のネットサービス『AOL』、『Fios TV』などのプラットフォーム向けに独占配信するというもの。

この契約の特徴は、アメリカでは両チームの地元地域以外一切テレビ中継されない点にある。イギリスでは『Sky TV(スカイTV)』によって中継されるということだ。このような独占配信は一昨年『Yahoo(ヤフー)』がやはりロンドンで開催されたビルズ対ジャガーズ戦で行ったことがある。その際はアメリカ国内で164万人がこのストリーミングを視聴した。

一昨年と今年の2試合に共通しているのはイギリスの土曜午後開催で、アメリカ東部時間では日曜朝9時30分キックオフという高い視聴率獲得が難しい試合であることである。そのためこのような独占配信契約が結べたのであろう。ベライゾンがNFLに支払う配信権料は独占ということもあり、2,100万ドルに上る模様だ。しかもこの金額は一昨年ヤフーが支払ったとされる1,500万ドルよりも600万ドル上回っている。NFLの試合中継はこれほどまでに魅力的なコンテンツとなっているのだ。

そしてそんな強力コンテンツを手放すまいとNFLと新たな種類の契約を結んだのがツイッターだった。TNFの配信権をアマゾンに奪われた同社だったが、5月11日にNFLと共同でプレゲーム番組やNFLのネット専門番組の配信に関して複数年契約を結んだと発表したのである。

プレゲーム番組はシーズン中、ゲーム前に選手へのインタビューや練習風景、試合の見どころなどをツイッターと傘下の動画サービス“Periscope(ペリスコープ)”でライブストリーミングを行うというもの。このようなプレゲーム番組は地上波やケーブルチャンネルでも人気がある。さらにツイッターはNFLネットワークの出演者による30分の生番組を週5日配信するということだ。

NFLの責任者は声明で「ツイッターはデジタルメディアで接触度の高い数百万のファンにアクセスする重要なパートナーであり続ける」とコメント。対してツイッターのCOOも「NFLからツイッターで世界中のフットボールファンにより多くのコンテンツを届けることにとても興奮している。この複数年にわたるコラボレーションによってNFLで起こっていることについて議論するスタジオ生番組や他にはない試合前の舞台裏の生配信、ツイッターのための最高のNFLハイライト、リアルタイムのNFLについての会話がもたらされることになるだろう」としている。

確かに今回の契約による配信はNFL公式コンテンツということもあって一定の人気を博しそうだ。

ただ今回の発表で不思議だったのは、実はツイッターは5月1日にMLBやWNBA、PGAツアーなど今年ライブストリーミング契約を結んだ16のリーグや団体を発表しており、その中にNFLが含まれていたことだ。その際、プレビューやハイライトを配信すると明記されていたのである。なぜその10日後に共同発表を行うことになったのか事情が気になるところである。

いずれにせよ、この3つの配信契約によって、NFLのストリーミングに対する積極姿勢がこれまで以上に明らかになったといえるだろう。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。