オーバータイムが10分に縮小、対応が求められる首脳陣
2017年05月28日(日) 17:33春恒例のオーナー会議がシカゴで行われ、ルール変更やスーパーボウル開催地などについて協議された。注目すべきはオーバータイムの時間短縮と2021年のスーパーボウル開催地変更だ。
2021年のスーパーボウルは2019年に完成する予定だったロサンゼルスの新スタジアムで行われることが決定していた。しかし、当地での異例の悪天候のために工期が延び延びになっており、2019年のレギュラーシーズンには間に合わない見込みとなった。
そこでラムズはチャージャーズと共有することになる新スタジアムの完成を1年遅らせると発表した。これを受けてオーナー会議ではロサンゼルスでのスーパーボウル開催を1年先送りする決定をした。2021年大会はロサンゼルスとの招致争いで次点に終わったタンパで開催されることとなった。
スーパーボウルの開催地変更は過去にも例があることで、タンパでの代替開催も満場一致で決まった。スタジアム完成の遅延が発表されてからわずか1週間の決断にNFLの迅速かつ臨機応変な行動力がうかがえる。
さて、もう一つの大きな決定事項はオーバータイムだ。従来の最大15分から10分に短縮される。プレシーズンとレギュラーシーズンで適用されるということだが、基本的にはプレーオフでも10分制のオーバータイムが実施される。ただし、勝敗を決しなければいけないトーナメントであるため、決着するまで10分間のオーバータイムが延々と続くことになる。
時間短縮は選手の体力と安全を考慮した結果であり、選手側にも歓迎されるに違いない。ただ、ゲームプランをつかさどるヘッドコーチ(HC)や攻守コーディネイターたちには新たな戦い方を構築する必要が出てきたと言える。
オーバータイムの時間が3分の2に短縮されることで引き分けが多くなるとの予測もあるが、それは必ずしも正しくない。これについては詳細を参照してほしい。
ちなみに北米プロスポーツは引き分けをひどく嫌う。米大リーグ(MLB)でも試合が決するまで延長戦を行うし、米プロバスケットボール(NBA)もオーバータイムを行う。競技自体がロースコアで展開して、同点でレギュレーションが終わることの多いNHLは延長に加えてシュートアウト(サッカーでいうPK戦)で決着させる方式を導入し、さらに得点がたくさん入るようにルール変更を繰り返してきた。引き分けは“妹とキスをするようなものだ”というアメリカ人の考えがその根底にある。
とすれば当然10分以内で試合を決めるべきゲームプランを用意するのがNFLだ。かつてのようにサドンデスで決着するルールであればとにかく得点することを優先するだろう。しかし、現行ルールではキックオフリターンタッチダウンが起きない限り、両チームに少なくとも1回はポゼッションのチャンスがある。ただし、それぞれ1回ずつのオフェンスを行って同点の場合は、これ以降はサドンデスとなる。ここに戦略立案の難しさがある。
レギュレーションの終了間際で同点だった場合、あえて決勝点を狙わずにオーバータイムに持ち込む作戦をとることはよくある。ところが、オーバータイムではこれは妹とのキスで満足する愚に等しく、フットボールの最高峰リーグのとるべき方策ではない。
オフェンスでは時間を支配するためのボールコントロール、パントによる危機回避、ここぞという時のギャンブル選択、プレーのエクセキューション(実行力)。ディフェンスなら引いて守るかプレスにカバーするか、どこでパスラッシュをかけ、いかにターンオーバーを奪うか。そして、フィールドゴールを蹴るキッカーの射程距離はどれくらいか。さまざまな要素がオーバータイムでは際立って重要になってくる。
実際には一つのチームが同じシーズンに幾度もオーバータイムを経験することは稀だ。だからといってその備えを怠ると大事な一戦を落としてしまいかねない。どんなわずかな可能性に対しても対策を十分に練ってくるチームが強い。NFLとはそういう世界だ。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。