コラム

NFLで最も稼ぐ選手の仲間入りをしたデレック・カー

2017年07月02日(日) 13:09


オークランド・レイダースのデレック・カー【AP Photo/Jeff Chiu】

レイダースのクオーターバック(QB)デレック・カーがNFLで最も稼ぐ選手の仲間入りを果たした。

現地22日、レイダースがカーと5年総額1億2,500万ドルの大型契約を結んだのだ。平均年俸は2,500万ドルで、これはコルツQBアンドリュー・ラックの2,460万ドルを上回り、現時点ではNFL最高額となる。若きエースQBにそれだけの価値があるとレイダースは判断したのだ。

ただ、その契約内容を見るとカーとラックでは微妙な差も見えてくる。まずカーの契約だが、総額は1億2,500万ドルではあるが、もし5年以内にいかなる理由でもチームを離れる事態になった場合に支払いが保証されているのは4,000万ドルとなっている。対して負傷によりチームを離れた場合の支払い保証額は7,000万ドルだ。また契約時に一括払いされるものの、サラリーキャップの計算では均等割して計上される契約ボーナスは1,250万ドルの模様だ。

また、昨年に結ばれたラックの契約は5年で総額1億2,300万ドルとなっている。ただし、最低支払い保証額は4,700万ドルで、負傷放出の場合の支払い保証額は8,700万ドルなのだ。さらに契約ボーナスは3,200万ドルに上る。支払い保証額、契約ボーナスのいずれもラックの契約はカーのそれを上回っているのである。

どうしてこのような差が生まれたのだろうか。それはこれまでの実績によるものだろう。ラックは2012年のドラフトでいの一番で指名されコルツに入団すると、ルーキーシーズンの開幕から2014年シーズンまで全てのゲームで先発を果たしただけでなく、いずれもプレーオフに進出している。2015年は肩の負傷などもあり、7ゲームの先発にとどまったが、実力と将来性だけでなく、怪我への耐久性の信頼などが高く評価されて、支払い保証額などが高くなったといえる。支払い保証はラックが契約期間中に放出されるとデッドマネーとなり、将来チームをサラリーキャップの管理で苦しめることになるかもしれないが、それだけのリスクをとれると判断したのだ。

一方、カーはラックから2年遅れて2014年にドラフト2巡全体36位指名でレイダースに入団している。やはりルーキーシーズンの開幕から先発の座をつかみ、以降、昨シーズンの第16週まで全ゲームで先発していた。第16週のコルツ戦で右脚腓骨を骨折し、戦列を離れたがそれまでレイダースの快進撃の中心がカーであったことは誰もが認めるところである。通算81タッチダウンパス、QBレーティング87.9は一流QBの証といえ、総額1億2,500万ドルも納得だ。まだ3年しか実績はなく、伸びしろがあるともいえるが、将来への不安要素も同時に感じられるわけで、それ故支払い保証額などがラックよりも低い額となった見るのが自然である。

とはいえ、カーがリーグ最高の契約を手にしたことには変わりはなく、その細かな点に当人はあまり気にしていないのかもしれない。契約を結んだ直後、カーは『Twitter(ツイッター)』に「今終わった! 生涯レイダーでいたいと願っていたから。一歩それに近づいた!!! ビジネスは済んだ! さあプレーするだけだ!!!」と素直な喜びを表現した投稿をしている。

さらに翌日の記者会見で、契約後最初に何を買ったかと質問されると「チックフィレイ。たぶんチックフィレイだ。全部食べたよ。またチックフィレイに行くと思う」と、意外にも庶民的なチキンファストフードチェーンに行ったことを明かした。

そのうえで「たぶん妻はなにか素晴らしいものを得るだろうね。そう、彼女が自分に求めなくてもね。正直、このお金が自分にとってエキサイティングなことは多くの人々を助けることになることだ」と語り、夫人のために使うことと、チャリティを行う考えを示している。

それと同時にNFL史上最も稼ぐ選手として評価されたことに対しては「チームメイトは皆、“おまえのこれまでの働きは、それに値する”と言ってくれる。自分はそれに値するように感じていない。しかし、彼らがそう言ってくれることに感動した。彼らは自分が戦いに出るとき一緒にいる存在であり、毎日一緒にいる存在だから」と戸惑いながらも、チームメイトへの感謝の気持ちを述べたということである。

そして「彼らに盛大なディナーをおごらなければいけないことは分かっているよ」とジョークでしめたということだ。

NFL最高額の長期契約を手に入れたカーが今後どんなプレーとリーダーシップを発揮するか、それを周囲がどう評価していくか楽しみである。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。