コラム

パッカーズの会計報告書から見えるもの

2017年07月30日(日) 12:19

グリーンベイ・パッカーズ【James D. Smith via AP】

2016年にNFLが所属する32チームに支払った分配金の総額が史上最高の78億ドルに達したことが分かった。これは現地7月12日にパッカーズが公開した昨年度の年次会計報告書から計算されたもの。

パッカーズは1932年以降、NFLで唯一株式を公開している非営利団体に属する、いわゆる市民チームだ。そのため毎年年次会計報告書を公開している。ちなみに現在36万3,948人のファンが、価格が上がることはなく配当があるわけでもなく、転売もできない株を所有し、オーナーとしての誇りを共有しているのだ。対してNFLは2015年に免税の対象から外れ、残りの31チームも株式を公開していないため財政状況について公開する義務を負っていない。こうしたこともあってパッカーズの年次会計報告書はパッカーズだけでなく、リーグの財政状況について推測するための重要な資料となっているのである。

その報告書によればパッカーズは昨年2億4,400万ドルの分配金をNFLから受けた。これは2015年の2億2,260万ドルから約1割の増加である。分配金はテレビの放映権料やリーグのスポンサー契約、マーチャンダイズ販売といった“全米収益”と呼ばれるNFLが契約、管轄している収益を全チームに均等に分配する制度。このため、リーグが支払った32チーム分の合計は78億ドルと計算できるのだ。

前年度比で1割の増えたのはやはりテレビの放映権料が増えたためだと見られている。『NBC』と『CBS』の2つの地上波ネットワークが支払うサーズデーナイトフットボール(TNF)の放映権料が、それまでの年3億ドルから4億5,000万ドルに引き上げられたためだ。昨シーズン前半、アメリカのNFLテレビ中継は大統領選の煽りを受けて視聴率が前年割れすることが多く、全体としても平均視聴者数が約8%少なくなった。広告収入でまかなうテレビ局としては厳しい状況といえるかもしれない。それでもNFL中継はケーブルテレビの解約が進行するなど特に若者の既存メディア離れが進むアメリカにあって超優良コンテンツではあり続けているのだが。

さらに放映権料収入がこの時期に増えることがNFLとチームにとって好都合な理由がもう一つある。それは選手会との間に結ばれた現労使協定は2020年までで、それまで選手に支払わなければいけない年俸総額の上限をサラリーキャップの比率などの条件を交渉しなくてもよいことだ。この点についてパッカーズのマーク・マーフィー社長は会見で「自分たちが得た成長はとても幸運だと思う。そしてそれはこれからも続くと確信している。少なくともこの労使協定が続く間は」と話し、この点を認めたということだ。

またNFLが分配した78億ドルはあくまでNFLの全収益の一部である。2017年の全収益は140億ドルと推測されている。ロジャー・グッデルNFLコミッショナーは以前、2017年までに250億ドルを達成したいと発言していた。

パッカーズ自体が生み出した収益は史上最高の1億9,740万ドルで、全体の収益は4億4,140万ドルとなっている。一方でスタジアムやチームの殿堂など周辺施設の改装費用や選手の年俸、契約ボーナスの支払いもあり、資質は前年度の3億3,400万ドルから4,200万ドル増え、3億7,600万ドルとなった。その結果、営業利益は6,540万ドルとなっている。

さらに興味深いのは今後パッカーズの収益が増えた要因としてラムズ、チャージャーズ、レイダースの3チームによる本拠地移転があることだ。ラムズとチャージャーズのロサンゼルス移転を承認した際、両チームは残りの30チームにそれぞれ6億5,000万ドルを支払うことで合意したのである。レイダースもラスベガス移転で3億5,000万ドルを支払うことになっている。

パッカーズによれば、実際の支払いは2019年12月31日から10年間にわたって行われるものの、税法上は2016年から会計に計上されることになっているのだという。その額は1チームあたり2,710万ドルになる。ただ、実際の支払い開始は2年以上先であり、マーフィー社長は「それは現在の貨幣価値だ。我々が最後に支払いを受けるのは13年後になる。2,710万ドルを今投資すれば、13年間で多くの価値を生むだろう」とも語っている。いずれにせよチーム移転はこうした影響も生む仕組みとなっているのである。

このように市民チームという貴重な存在のパッカーズからさまざまなことが分かるのだ。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。