コラム

第52回スーパーボウル、カギを握る守備コーディネーター

2018年02月01日(木) 06:38

第52回スーパーボウル:フィラデルフィア・イーグルス対ニューイングランド・ペイトリオッツ

第52回スーパーボウル特集

ペイトリオッツ、イーグルス、両チームのミネアポリス入りと同時にスーパーボウルウイークが幕を開けた。これから試合当日――日本時間2月5日(月)――まで、さまざまなイベントが催されつつ、NFL王座決定戦に向けた準備が着々と進められる。

戦前の予想では前年王者のペイトリオッツが5点ないし6点差で有利と目されているが、イーグルスはポストシーズンで過去2試合ともアンダードッグの前評判を覆して勝利してきている。もともと賭け率で表される数字なので、両チームの実力とは必ずしも合致しない。

一般的にはペイトリオッツのリーグナンバーワンオフェンスと、失点2位タイのイーグルスディフェンスのマッチアップが分かりやすい。筆者もその視点からいくつかプレビューを書いてきたが、今回はやや趣を変えて両チームの守備コーディネーターに焦点を当ててみたい。守備コーディネーターこそがこの試合の鍵を握ると考えるからだ。

イーグルスのジム・シュワーツ守備コーディネーターは2016年に現職に就任した。そこからわずか2年で、ほとんどの部門でNFL下位だったディフェンスを大きく立て直した。彼の就任前に30位だったトータルディフェンスは今季4位、28位だった失点も同じく4位となった。ランディフェンスはリーグトップである。

シュワーツの手腕が評価されるのはもとからチームに残る人材を活用して実現したことだ。ディフェンシブタックル(DT)フレッチャー・コックス、セーフティ(S)マルコム・ジェンキンス、ラインバッカー(LB)マイカル・ケンドリックスらは当時から在籍していた中心選手。彼らの能力を引き出すようなスキームを編み出したからこそ、ディフェンスの向上があるのだ。

4-3守備隊形をかたくなに守り、ブリッツを多用しないところにシュワーツのディフェンスの特徴がある。ことに現在のフロント4はブリッツの助けを借りなくても十分なパスラッシュをかけられ、その分、パスカバーが厚くなる。これはパスカバーの薄くなったところを巧みに攻めるトム・ブレイディとの対戦では有効だ。

ただし、いくらディフェンスライン(DL)が強力とは言え、常に4人だけで十分なプレッシャーをブレイディにかけられるわけではない。人数で勝るオフェンスのブロッカーに対抗するにはブリッツを使わざるを得ない。それに対してペイトリオッツはスクリーンパスやブリッツでガラ空きとなったゾーンへのホットパス、ランニングバック(RB)のダイブなどで攻撃してくるだろう。

このブリッツに対するカウンターパンチこそがペイトリオッツオフェンスの強さだ。面白いデータがある。過去、ブレイディはプレーオフでディフェンスがリーグトップ2以内のチームと対戦したことが4回あり(今年のAFC決勝ジャガーズ戦を含む)、すべて勝利している。しかも、全試合でレーティングは100を超えており、驚異的な強さを発揮しているのだ。

タイトエンド(TE)ロブ・グロンコウスキーもワイドレシーバー(WR)ダニー・アメンドーラもディフェンスのパスカバーの隙間を見つけて走り込むのが得意だ。そこに阿吽の呼吸でブレイディのパスが飛んでくる。隙ばかり攻められるディフェンスはあっという間に距離を稼がれてしまう。

このペイトリオッツの攻撃に対してシュワーツがどのような秘策を練ってくるのか。NFC決勝のバイキングス戦ではパスラッシュからのターンオーバーが試合を有利に進める大きな要因となった。ほとんど全てのプレーでケイス・キーナムにプレッシャーを与えてパスのリズムを構築させなかった。同じことをブレイディ相手にもできることが勝利への最低条件となる。

対するマット・パトリシアはペイトリオッツの守備コーディネーターとしてはこれが最後の仕事になる可能性が高い。スーパーボウル後にライオンズのヘッドコーチ(HC)に就任することが濃厚だ。

以前から手腕に定評のあるパトリシアだったが、今年は特にシーズン序盤のディフェンスのスランプから大きな建て直しに成功したことが評価された。開幕間もない9月のペイトリオッツディフェンスはコーナーバック(CB)ステフォン・ギルモアやLBマーキス・フラワーズら新加入の選手が苦戦したこともあって失点が多かった。2勝2敗となった最初の4試合で30点以上を失った試合が3つもあったのだ。

それが最終的には1試合平均失点18.5(リーグ4位)にまで改善したのだから見事だ。

そんなパトリシアが挑むのはイーグルスのランパスオプションだ。ACL断裂で今季絶望となったカーソン・ウェンツに代わって先発クオーターバック(QB)に抜擢されたニック・フォールズはこのランパスオプションによってシーズン終盤の低迷を脱したと言われる。実際にNFC決勝ではランパスオプションを使ったプレーではパスの成功率が9割を超えたとのデータもある。

ランパスオプションとは一人のディフェンダーに注目してRBにリードオプションのアクションを行い、ディフェンダーがランに反応すればパスを、パスカバーに下がる動きをすればランを選択するプレーだ。ディフェンダーの動きを見てからプレーを選択するために、どうしてもディフェンスが後手に回る。

チーフスやウェンツが故障する前のイーグルスのランパスオプションは基本的にQBが走るかパスを投げるかのオプションである。しかし、フォールズの場合は自分が走る代わりにランニングバック(RB)ジェイ・アジャイやレギャレット・ブラントにボールを持たせる可能性もある、やや変形なランパスオプションだ。

バイキングスは最後までこれに対応できずに、リーグ1位のディフェンスを誇りながら大量失点を許した。当然、パトリシアもイーグルスのランパスオプションについては研究を重ねているだろう。

一般的にランパスオプションはゾーンディフェンスに強くマンツーマンカバーに弱いとされる。だからと言って常にマンカバーを採用するわけにはいかない。最善策はフォールズにゾーンカバーと思わせておいてマンカバーをするなど、プレスナップの読みを狂わせることだ。アジャスト能力の高いパトリシアのことだから、すでにいくつかの対策を立てているに違いない。ただ、それを加味してもランパスオプションは守るのが難しい。60分間の戦いの中で成功と失敗のどちらが多いかが勝敗を分けることになるかもしれない。

さあ、いよいよ決戦だ。ペイトリオッツが連覇してスーパーボウル最多記録6に並ぶか、それともイーグルスが1960年以来のNFL優勝を果たすか。名勝負を期待したい。

第52回スーパーボウル特集

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。