コラム

スティーラーズ、ビラヌエバがジャージー収入を寄付

2018年05月06日(日) 17:35

ピッツバーグ・スティーラーズのアレハンドロ・ビラヌエバ【AP Photo/Nam Y. Huh】

一昨年、49ersのクオーターバック(QB)だったコリン・キャパニックによって始められた試合前の国歌斉唱時に起立せず、ひざまずくなどの人種差別に対する抗議行動は、昨年トランプ大統領が不満をぶつけたことからリーグ全体を揺るがす大問題へと発展した。現在もリーグが国歌斉唱時の行動についてルール化するのではという推測やキャパニックやキャパニックの最初の同調選手でありフリーエージェント(FA)となっている元49ersのセーフティ(S)エリック・リードが契約を得られていないなど、くすぶり続けているのも事実だ。そんな中、この騒動に巻き込まれて不本意な注目を集めた選手の行動が称賛されている。スティーラーズのオフェンシブタックル(OT)アレハンドロ・ビラヌエバだ。

ビラヌエバはトランプ大統領による批判で、この問題が一挙に大きくなるさなかに行われた昨年9月24日のベアーズ戦の国歌斉唱時に、スティーラーズの選手でただ独り、フィールドの隅で起立し、胸に手を当てていたことで一挙に注目されることとなった。実はこの試合前、QBベン・ロスリスバーガーがチーム全体に国歌斉唱時にはフィールドを出て、ロッカールームに通じるトンネルにいることを呼びかけていたのだ。マイク・トムリンヘッドコーチ(HC)もこれに賛同し、全員がこれに参加することを望んでいた。

ビラヌエバはチームの呼びかけに反し、抗議行動に抗議しているかのような行動に出たのだ。しかもビラヌエバは陸軍士官学校出身で、卒業後、いったんは陸軍に入隊し、アフガニスタンに赴任していたこともある退役軍人でもある。当然ながら抗議行動を快く思っていない保守系やトランプ大統領支持者はビラヌエバを称賛し、ビラヌエバのジャージーはその週、最も売れたジャージーとなったりもした。

ただし、ビラヌエバは試合の翌日には、ロスリスバーガーの呼びかけに賛同して同じ行動をするつもりだったが、国歌斉唱が始まった時点でトンネルから離れた場所にいたため、仕方なくその場で起立したのだと釈明したのである。「自分がトムリンを悪く見せた。それは自分の過失だ。自分だけが悪い。チームメイトを悪く見せた。自分の過失だ」と謝罪している。

それにもかかわらず、ビラヌエバは称賛され、ジャージーは売れ続けたのだ。全国紙『USA Today(USAトゥデー)』によればシーズン全体のジャージー販売数で30位となったとのことだ。こうした売り上げの一部は各選手に配分されており、それなりの額になっていると推測される。ただ今回ビラヌエバはこの収益を慈善活動に寄付していると報道された。それもスティーラーズが所属するAFC北地区のピッツバーグ、ボルティモア、クリーブランド、シンシナティの4都市に対してだ。

ボルティモアでは警察と緊急対応者に寄付を行い、クリーブランドではベンガルズのディフェンシブエンド(DE)マイケル・ジョンソンを尊敬していることから、ジョンソンの慈善団体に資金提供を行っている。複数の学校にも寄付したということだ。

ただ、ビラヌエバはブラウンズの誰とも親交がなかったことから、クリーブランド市に7,000ドルの小切手を「これが団体への小切手です。2試合以外は今年幸運でありますように。はは、アル・ビラヌエバ」というメモをつけて贈ったそうだ。合計20団体に寄付されたということだ。

寄付の総額やこの件についてビラヌエバはコメントしていない。

不本意な形で論争に巻き込まれたビラヌエバが、ギスギスした雰囲気になりがちなこの問題に関してほんの少し爽やかさをもたらしてくれた。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。