コラム

WRデズ・ブライアントが新天地探しに苦戦する理由

2018年05月13日(日) 06:12


ダラス・カウボーイズのデズ・ブライアント【AP Photo/Michael Ainsworth】

カウボーイズのエースワイドレシーバー(WR)でチーム記録となる73タッチダウンパスキャッチを誇るデズ・ブライアントが解雇されて2週間が経とうとする。ドラフト前日のカットも衝撃的だったが、これだけのビッグネームでありながら依然として移籍先が決まらないのも驚きだ。

オフに有名選手がリリースされ、しばらくはどのチームからも声がかからないのは珍しいことではない。しかし、ブライアントほどのネームバリューと実績があれば獲得に手をあげるチームがすぐに現れても不思議ではなかった。このオフはラインバッカー(LB)デリック・ジョンソン(チーフスからレイダース)やコーナーバック(CB)シャーマン・リチャード(シーホークスから49ers)、WRジョーディ・ネルソン(パッカーズからレイダース)といったビッグネームが所属チームから解雇されたが、すぐに新天地を見つけている。

ブライアントの移籍先が決まらない理由の一つは年俸にある。カウボーイズで今季支払われる予定だった年俸は1,250万ドルで、サラリーキャップに反映する額はさらに多く、1,650万ドルに及んだ。カウボーイズは今年30歳となり、近年は故障も多いブライアントにこの金額を払うことを拒んだのだ。

しかし、もっと大きな理由は彼自身のプレースタイルにあるようだ。カウボーイズの人事副部長のウィル・マックレイは「ダウンフィールドでの(ディフェンダーとの)1対1で勝てなくなっているし、プレーも安定感がなくなった。結果がすべてのこのリーグではデズと袂を分かつのが正解だ」と言い切る。

ブライアントはかねてからパスコースを正確に走ることが苦手との評価があった。それに加え、最近は足まわりの故障が続いたせいかスピードあるCBを抜き去ってワイドオープンになるというシーンが減った。クオーターバック(QB)にとってブライアントはターゲットにしにくいレシーバーになってしまったのだ。

この評判は多くのチームにも共有されているとみるべきだろう。ブライアントほどの人材だ。獲得に乗り出すチームがあったならカウボーイズはドラフトでのトレード要員として使えたはずだからだ。解雇してデッドマネー(解雇後も支払い義務があったり、サラリーキャップに反映したりする金額)を背負うよりはドラフト指名権と交換でトレードする方が得策に決まっている。

前もって他球団と水面下で交渉があったとみるべきで、トレード成立の見込みがなかったからドラフト前日の解雇に踏み切ったのだ。

今年はQBの異動が多かった。また、ドラフトでも多くのQBが指名を受け、NFLデビューを心待ちにしている。このように新システムでプレーするベテランやこれからNFLのレベルになれようとする新人QBにはルートランニングの正確ではないブライアントのようなレシーバーはターゲットとして適役ではない。ここにも各チームが獲得に二の足を踏む理由があるのではないか。

現地メディアの報道ではこのままチームが決まらないままに開幕を迎え、やがては引退に追い込まれるのではないかという論調の記事もあるが、さすがにそこまではないと思われる。いずれは新チームが決まるだろう。ただし、年俸の減額や第2、第3レシーバーへの降格など受け入れなければならない条件もあるに違いない。プライドをとるか実利を選ぶか。この決断も新天地決定を左右する要素だ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。