スポーツ賭博合法判決による影響
2018年06月03日(日) 12:03現地5月14日、アメリカ連邦最高裁判所はスポーツを対象とした賭博の解禁を認める判断を下した。アメリカでは八百長を招く、あるいは競技の純粋性を損なう等の理由から1992年に連邦法、1992年プロ・アマスポーツ保護法(PASPA)が制定され、その時点でスポーツ賭博を法整備していたネバダ州、モンタナ州、デラウエア州、オレゴン州の4州を除く全ての州では違法とされてきた。
しかし、2012年に財政難から新たな財源を求めニュージャージー州がスポーツ賭博を合法化する法案を可決。これに対してNFLを含む、いわゆる4大プロリーグと全米大学体育協会(NCAA)がニュージャージー州のスポーツ賭博合法化はPASPA違反として訴訟を起こしていたのである。今回、最高裁は判事9人のうち賛成6、反対3の評決で、PASPAでスポーツ賭博を禁ずることは違憲との判決を下したのだ。
全国紙『USA Today(USAトゥデー)』は、判決が出た時点ですでに合法化している州が7つ、審議中の州が12あるとしている。財政が厳しい州は多く、今後合法化に向けた法整備や環境整備の動きが活発化することは確実だ。
そんな中、NFLは21日、ロジャー・グッデルコミッショナーがこの件についての声明を発表した。その中でコミッショナーは「NFLのコミッショナーとして、スポーツの清廉さを守ること以上に大事なことはない。試合に悪影響を及ぼさないようにできる限りのことをしている。米国最高裁判所がスポーツ賭博を合法化したが、スポーツの清廉さを守るという揺るぎない信条はこの先も変わらない」とした上で、合法化による変化に対応できるよう準備を整え、チームや選手、職員などに対する教育やコンプライアンス研修を行うとした。
さらに議会に対し、4つの核となる基準を制定するように求めている。その基準とは以下の通りだ。
1.強固な消費者の保護
2.スポーツリーグがそのコンテンツと知的財産を盗用や誤用しようとする試みから守る事ができること
3.ファンが公式かつ信頼できるデータへのアクセスできること
4.この法律の施行がファンを守り、国内外の不誠実な者を罰せられるリソース、監視、施行ツールを有すること
アメリカにはすでに年1,500億ドル(約16兆4,500億円)規模の違法スポーツ賭博市場があるとされており、特に2に関しては実現の道は険しそうだ。アトランタで開催されたリーグ会議でスティーラーズのアート・ルーニーオーナーは「連邦、州レベルの両方で規定されなければならないことが多い。そのためどのように進展していくかはっきりするまでには長くかかるだろう」と語っている。
一方、NFL選手会(NFLPA)も「最高裁判所の決定は、今日、プレーヤーの安全性、ゲームの完全性、プライバシー、宣伝権の問題について、他のスポーツ組合と協力するというわれわれの決定を再確認するものだ。われわれの組合は、進展を密接に監視し、NFL、州議会議員およびその他の関係者とこの判断の意味合いを確かなものにする。将来のスポーツ賭博法にかかわらず、ゲームの完全性は我々の最優先事項であり続ける」との声明を出した。
NFLは4大プロリーグの中で最も保守的で、これまでスポーツ賭博に否定的とされてきた。しかし、2020年に予定されるレイダースのラスベガス移転を認可するなど近年ではその姿勢に変化も現れている。
NBAとMLBは八百長の防止や教育、コンプライアンス環境整備などの資金とするため、掛け金の一定比率、1%程度をリーグに支払わせるインテグリティフィーと呼ばれる制度の導入活動を展開している。NFLもこの制度の導入に前向きだとする報道もあった。
NFLはラスベガスでのスポーツ賭博や実在する選手で架空チームを作り、実際の選手の成績によって競うファンタジースポーツにおいて、高い人気を誇っている。それだけに今回の判決によるスポーツ賭博の広がりの影響は今後も続きそうだ。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。