コラム

税金がチームの強さに影響?

2018年09月23日(日) 08:00

サンフランシスコ・49ersのジミー・ガロポロ【AP Photo/Ben Margot】

税金の低い州のチームは高い州のチームより有利である。そんな論文をウィーン経済産業大学が発表し、注目されている。

アメリカでは州により個人所得税などの税制が大きく異なっており、それがNFL各チームの成績に影響を及ぼしているというのだ。論文によれば1994年から2016年までの23年間の個人所得税率が14.1%と最も高かったカリフォルニア州のチームは個人所得税のないフロリダ州、テキサス州、テネシー州、ワシントン州のチームより年平均2.75勝少なかったとのこと。また2016年にプレーオフに進出できなかったチームの平均税率は5.93%で、プレーオフ進出チームより約30%も高かったという。

なぜこんな違いが生まれるのか。論文の執筆者マシアス・ペチュチニグはNFLのチーム年俸総額の上限を定めたサラリーキャップに起因しているとしている。サラリーキャップはチームの競争レベルを平均化する目的で、NFLとNFL選手会の同意によって結ばれた労使協定のもと導入されている。ニューヨークやカリフォルニアのようなマーケットの大きい地域に本拠地を置くチームは収入も大きくなりやすく、その分、選手と高額な契約を多く結んでチームを強くできるといったことを排除するためだ。年俸総額を一定にすればチームの戦力もある程度そろうだろうとの論理である。NFLのサラリーキャップは4大プロリーグの中でも最も厳しい制度となっており、そのためハードキャップなどとも呼ばれる。今シーズンの場合、1チームのサラリーキャップは1億7,700万ドルで、53人のロースターでは1人平均330万ドルとなっている。

ただし、そのサラリーキャップ制度は州による税制の違いが考慮されていないのだ。これが大きな違いを生んでいると論文は指摘している。税率が高いと同じ年俸でも実質的に選手に渡る金額が目減りするというのだ。所得税が高いカリフォルニアのチームが選手のサラリーに使える金額は所得税のない州のチームより毎年34万7,500ドル少なくなるのだとか。ペチュチニグは「支払う税金が少ないチームはより良い選手を獲得できるチャンスが増える」とコメントしている。

この点についてペチュチニグは1995年に税率7.4%のオハイオ州クリーブランドから税率5.3%のメリーランド州ボルティモアに移転した旧ブラウンズ、現レイブンズの例を挙げている。レイブンズは移転後平均1勝以上勝利数が増えただけでなく、2001年にはスーパーボウルを制しているのだ。全体でも1994年から2016年の期間で見ると税率が1%高くなる毎に勝利数が0.23減るともしている。

サラリーキャップはNFLの人気を高め、ビジネスを拡大する大きな要因として語られることが多かったが、税制の差という別の格差も生んでいたのかもしれない。もちろんテキサスやフロリダはもともとフットボールステーツと呼ばれるほどフットボール人気が高く、税制に関係なくチームの強さに結びついているという見方もあるのだが。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。