コラム

好調のフィッツパトリックと処分明けのウィンストン、どちらを先発させるべきか

2018年09月30日(日) 03:08


タンパベイ・バッカニアーズのライアン・フィッツパトリック【AP Photo/Jason Behnken】

シーズン第3週マンデーナイトフットボールでスティーラーズに敗れたものの、2勝1敗の好スタートを切ったバッカニアーズが難しい決断に直面する。次週のベアーズ戦にライアン・フィッツパトリックを先発として起用し続けるか、3試合の出場停止処分を終えてチームに合流するジェイミス・ウィンストンを投入するかの選択だ。

本来なら控えのフィッツパトリックがバッカニアーズ好調の立役者の一人であることは間違いない。NFL記録となる3試合連続の400ヤード超のパッシングをマークし、早くも11タッチダウンパスを記録している。バッカニアーズが誇るマイク・エバンス、クリス・ゴドウィン、デション・ジャクソンといったレシーバー陣の能力を存分に引き出してパッシングオフェンスをけん引する。

スティーラーズ戦では前半だけで3インターセプトを喫してピンチを招いたが、後半には猛追を見せ、あと一歩で開幕3連勝を達成するところだった。野球では打線が好調な時は打順を変えるなと言われるが、それに従うならフィッツパトリックを先発クオーターバック(QB)として起用し続けるべきとの論調が成り立つ。おそらくバッカニアーズの選手たちもそれを願っているのではないか。

しかし、ウィンストンがチームのフランチャイズQBであるという事実がダーク・カッターHC(ヘッドコーチ)の決断を難しいものとしている。ウィンストンは言うまでもなく2015年ドラフト全体1位指名のQBだ。チームとしては多額を投資しており、彼の能力を中心にオフェンスを組み立ててもいる。ウィンストンはベンチで控えに甘んじてはいけない存在なのだ。

フランチャイズQBとは出場可能である限りスターターとしてチームを引っ張る義務があり、またそれを可能にするだけの能力を持たなければならない。チームもフランチャイズQBで勝つからこそ上昇気流に乗れるのであり、本来のチームとしての在り方を現実のものとすることができる。

とは言え、勝つことこそが最優先されるNFLではフランチャイズQBという「名」よりもより勝ちを呼びやすいQBに頼るという「実」を重んじたくなるのもまた事実である。

仮にフィッツパトリックを先発として起用し続けて彼が好調を維持した場合にウィンストンは事実上バックアップに降格することになる。チームが勝ち続けていればそれでいいとファンは思うが、チームの思惑は別だ。フランチャイズQBとして扱ってきたウィンストンを控えに回すと、それを不服としたウィンストンが来年のオフには退団を希望する可能性がある。現在35歳のフィッツパトリックが今後長期にわたってバッカニアーズの正QBであり続けるとは考えにくく、ウィンストンを失ってしまうことになればバッカニアーズはまた一からフランチャイズQB探しを始めなければいけなくなる。長期的視野に立った時、これは球団にとって不利な状況だ。

チーム再合流と同時にウィンストンを先発に戻した場合でも懸念は残る。万が一にもQB交代によってオフェンスの勢いが滞ればチーム全体の雰囲気が悪くなる。フランチャイズQBなだけに、不調を理由にすぐにフィッツパトリックに再度スイッチしにくいという事情もある。我慢して起用し続けているうちに黒星が積み重なることだってあるのだ。好調な開幕スタートを切ったとはいえ、勝ち星の先行はわずかに1に過ぎない。万が一連敗するようなことがあればあっという間に勝率5割を切り、大混戦が予想されるNFCサウスで下位に下がってしまう。

第3週にはイーグルスでカーソン・ウェンツが先発QBに復帰し、コルツを破ってチームの勝利に貢献した。イーグルスでは昨シーズン第14週にウェンツが膝の靱帯を切る重傷を負ってから控えのニック・フォールズがスターターを務め、スーパーボウル優勝も達成した。しかし、イーグルスではあくまでもウェンツが正QBであるという位置づけがぶれることはなく、故障が癒えてコンタクトが可能という診断が出た瞬間にウェンツはフランチャイズQBの座に返り咲いた。ここにQBの先発問題争いは起こらなかった。

バッカニアーズとウィンストンがイーグルスとウェンツの関係と異なるのは、ウィンストンのクオーターバッキングに必ずしもチームが全幅の信頼を置いていないということと、今回の欠場は自身による不祥事が原因(女性に対するセクハラ行為)になっていることだ。

フィッツパトリックの予想以上の活躍があったがための贅沢な選択という見方もあるだろうが、ここでの決断を誤ればバッカニアーズのシーズンがまたも不本意なものに終わってしまうことになりかねない。それだけに、慎重な検討が必要だ。ただし、次戦までに実質的な練習日が3日ないし4日間と限定される中ではほとんど猶予がない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。