コラム

今度はWRクーパーを放出、レイダースの変貌に見え隠れする思惑

2018年10月28日(日) 02:15

オークランド・レイダースのアマリ・クーパー【AP Photo/Michael Perez】

10月30日のトレード期限を前にレイダースがエースワイドレシーバー(WR)アマリ・クーパーをカウボーイズにトレードした。交換条件は2019年ドラフト1巡目指名権である。

昨年から今季にかけてのクーパーはレイダースが快進撃を見せた2016年シーズンに比べるとパフォーマンスが落ちている。クオーターバック(QB)デレック・カーのパスが今ひとつ本調子ではないことも原因のひとつだが、1巡目指名権は現在のクーパーにはやや過剰な交換条件だとの批判もある。

ただ、それだけカウボーイズがディープスレットに飢えていることの裏返しでもある。今季はオフにリリースしたWRデズ・ブライアントと引退したタイトエンド(TE)ジェイソン・ウィッテンの穴はなかなか埋まらず、パッシングで苦戦しているからだ。

しかし、地区ライバルであるイーグルスのレイダースへのオファーが2巡目指名権だったことを考えると思い切った代償を払ったとの印象はぬぐえない。

レイダースがこの好条件を見逃すはずはなかった。ジェネラルマネジャー(GM)のレジー・マッケンジーは「カウボーイズからの条件提示は見過ごすことのできないものだった。このビジネスにおいてこれを受けない選択肢は考えられなかった」と述べている。カウボーイズからのオファーをマッケンジーから伝えられたジョン・グルーデンHC(ヘッドコーチ)も「すぐに話をまとめろ」と大乗り気だったようだ。

開幕直前のカリル・マックのベアーズへのトレードに次ぐ主力選手の放出である。マックのディール(取引)では来年と2020年のドラフト1巡目指名権が交換条件となっているから、レイダースは現状で来年のドラフト1巡目指名権を3つ、再来年は2つ保持する。グルーデンは「今後の2年間で5つもの1巡目指名権を持っていることにワクワクする」と述べる。

この発言はともすれば1勝5敗と苦しむ今季を早くも断念し、来年から豊富な1巡目指名権を有効に行使して新たなレイダースを作っていこうとの意思にも受け取れる。新たなレイダースとはグルーデン自身が選手構成の決定権を持つチームだ。

マックやクーパーの放出でうわさされるのはグルーデンとマッケンジーの確執だ。もちろん当人たちは否定しているが、マックやクーパーはマッケンジーが1巡目指名を決めた選手たちである。それを惜しげもなくトレードしてしまうところに「マッケンジー色払拭」の思惑が見えるのだ。

マッケンジーは2012年にGMに就任した。前年に亡くなったチームの創始者兼オーナーであるアル・デイビスが持っていた人事権を継承したのだ。デイビスはチームのニーズよりもオフェンスのスキルポジションのタレントを重視する傾向が強く、ドラフトやフリーエージェント(FA)戦略も、そのフィロソフィーのもとで行われた。チームがスーパーボウルに出場した2002年以降に長い低迷期に入ったのはこの偏った戦力補強の影響も少なくない。

マッケンジーが最初に行ったのはこの方針の転換だった。まずオフェンスライン(OL)を重視し、ドラフトとFAをうまく使い分けて長期的視野に立ってチーム作りに努めてきた。ドラフトを第一に考え、その穴をFAで埋めるという手法はレイダースのGMに就任する前に在籍したパッカーズで学んだ手法なのだろう。

マッケンジーのもとでマックやクーパー、カーらが生え抜きとして成長し、3年前には実に14年ぶりにプレーオフの舞台に返り咲いたのだった。もちろん、そこには就任2年目のジャック・デル・リオHCの手腕もあったろう。しかし、2016年の終盤にカーが脚の骨折で戦列離脱した影響が大きく、地区優勝を逃してプレーオフでは初戦敗退。スーパーボウル候補とも期待された昨年は6勝10敗と大きく後退した。

それがデル・リオの解任とグルーデンの再雇用に結びついたのだが、これにはマーク・デイビス現オーナーの意向が強く働いたのは周知の事実だ。デイビスはレイダース再建に向けてグルーデンに絶対の信頼を置く。その信頼のもとにグルーデンに人事における権限まで与えることになればマッケンジーの存在は不要となる。

現在はHCがGMを兼任する例は最近は少ない。しかし、グルーデンとデイビスがそれを画策しているのだとすればこれら一連のトレードはグルーデン仕様のレイダースを作るための第一歩だと考えることもできる。

それが事実だとすれば、来年以降のレイダースは再び大きく人員構成が変わり、いい人材をドラフトでとることができればプレーオフを狙えるチームができるはずだ。そういうベストケース(理想的な)シナリオはすでにグルーデンとデイビスの頭の中では描かれているのかもしれない。

そのシナリオが実現するとき、マックやクーパーの放出を嘆くレイダースファンは報われるのだろうか。2020年にはチームはラスベガスに移転する予定だ。将来のために今が切り捨てられているのだとしたら、オークランドのファンはこの状況に何を思うのか。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。