コラム

ガーリーのプレーが泣き笑いを生んだ理由

2018年11月04日(日) 10:14

ロサンゼルス・ラムズのトッド・ガーリー【AP Photo/Marcio Jose Sanchez】

現地10月28日に行われたシーズン第8週のパッカーズ対ラムズ戦は期待に違わぬ接戦となったが、第4クオーター残り2分9秒でラムズのキッカー(K)グレッグ・ズアーレインが34ヤードのフィールドゴールを決め、ラムズが29対27と逆転した。

さらに続くキックオフでパッカーズのランニングバック(RB)タイ・モンゴメリーがファンブルし、ラムズのラインバッカー(LB)ラミック・ウィルソンがリカバー、ラムズが敵陣21ヤードで攻撃権を得る展開に。そしてその第3ダウンで残り1分5秒からラムズのRBトッド・ガーリーがボールを受け、左サイドを駆け上がった。ただガーリーはエンドゾーンに迫ったものの、パッカーズにタイムアウトが残っていないことがわかっていたため、スピードを急激に落として4ヤード地点でダウンとなったのである。次のプレーでラムズのクオーターバック(QB)ジャレッド・ゴフがニーダウンし、試合は決着した。

ただ、このガーリーのプレーに対し、一部から称賛の声と失望の声が挙がることとなったのである。その人々とはこの試合に賭けていたギャンブラーたちだ。NFLの試合を対象としたスポーツ賭博にはいくつもの種類があるが、その中でもポピュラーなのがポイントスプレッドと呼ばれる「ハンデを付けた勝ち負け」の賭けである。例えば、AチームとBチームの試合でAチームが7点有利となっていたら、Aチームが8点以上の差をつけて勝たないとBチームに賭けた人が勝つことになるというものだ。

この試合でのハンデ、スプレッドはラムズに7.5点となっていた。ラムズに賭けた人が賞金を得るには8点差が必要だったのである。

さらに総得点を対象にした賭けでも泣き笑いが起こった。これはカジノが設定した総得点よりも多い(オーバー)か少ないか(アンダー)を賭けるもの。その総得点が今回58点だった。

つまりガーリーがゴールライン手前でダウンしたのと、スピードを落とさずタッチダウンしていたので2つの賭けの勝者が入れ替わっていたのだ。

実はこうしたことは昨シーズンのプレーオフでも起こっている。NFCディビジョナルプレーオフ、セインツ対バイキングス戦のことだ。

この試合でバイキングスのQBケイス・キーナムがワイドレシーバー(WR)スティフォン・ディッグスに61ヤードの逆転決勝タッチダウンパスを決め、29対24でバイキングスが勝利を収めた。スタジアムは大騒ぎとなり、両チームはいったんロッカールームに引き上げたものの、当時のルールでは試合が決まっていてもトライフォーポイント(TFP)をしなければならず、フィールドに戻ったキーナムがニーダウンしてTFPを実施、正式の試合終了となった。

問題となったのはこのTFPの結果だ。実はこの試合のスプレッドはバイキングスに5.5点ついていたのである。TFPでニーダウンして点が入らないか、キックなどで追加点が入るかで賭けの結果が分かれたのだ。

とはいえ、昨シーズンと今シーズンではかなり事情が異なる。というのはアメリカで今年1月の段階でスポーツ賭博を実施していたのは実質ネバダ州ラスベガスだけだった。しかし、今年5月に連邦最高裁判所がスポーツを対象とした賭博の解禁を認める判断を下したため、スポーツ賭博がニュージャージー州などでも行われるようになっており、賭けに参加する人口が大幅に増えているのである。

そのため、今回のガーリーのプレーに対してツイッターなどで「なぜだ!」と非難したり、「愛してる」と称賛したりと、さまざまな投稿が行き交う事態となった。これに対してガーリーは泣き笑いとあきれた仕草の絵文字とともに「スプレッドって何」という投稿を返している。

スポーツ賭博の解禁でカウボーイズがカジノ事業者と公式スポンサー契約を結ぶなどしているが、今後このようにプレーにも影響が出てくるかもしれない。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。