コラム

安全向上アイデアコンテストでパントのルール変更提案

2019年02月11日(月) 06:12

第4回の開催を迎えた『1st and Future(ファースト・アンド・フューチャー)』

ペイトリオッツがラムズを破った第53回スーパーボウルの前日、現地2月2日にアトランタのジョージア工科大学で同大学が主催者となり、アロー・エレクトロニクスが後援したビジネスアイデアコンテスト『1st and Future(ファースト・アンド・フューチャー)』が開催された。

これはNFLが近年深刻な課題となっているプレーの安全性や選手の健康の向上に関するアイデアをベンチャー企業や研究機関などから募集し、優れたものを表彰するコンテストで、3年前からスーパーボウルの前日に開催地で最終選考会が行われている。

最終候補に残ると、ロジャー・グッデルNFLコミッショナーやファルコンズのCEOでNFLの競技委員会会長のリッチ・マッケイ、カーディナルスのワイドレシーバー(WR)ラリー・フィッツジェラルドなどによる選考委員の前でプレゼンテーションを行い、優勝者が決まる。

これまでも行われてきた選手の安全向上部門に加え、今回はパントプレーのデータ分析とルール変更の提案という新たな部門が創設され、実施されている。キックオフとパントは全力疾走する選手が交錯することもあり、脳しんとうが起きやすいとの認識がある。NFLは2017年までのルールではキックオフで脳しんとうが起きる確率は通常プレーの5倍もあり、パントも2倍だとしている。そのため、2018年からキックオフについては助走を禁止するなど、選手の走る速度が落ちるようルール変更がされた。ただ、パントについては手つかずだったため、今回、ゼブラ・テクノロジーズ社が全選手のショルダーパッドに装着したGPS測定装置によって得られたパント時の選手の動きや速度などのデータを、データ分析を専門とする参加者に提供し、分析、ルールの変更を提案してもらう試みだったのである。

選考結果だが、選手の安全部門では首の筋肉を鍛える製品を開発しているトップスピンが優勝し、5万ドルの助成金が贈られている。同社は首の強さが1ポンド強くなるごとに脳しんとうの発生率が5%下がるという調査結果に基づいて開発を行っている。主力製品であるトップスピン360は水平方向に荷重をかけたロッドが上部に取り付けられたヘルメットが特徴だ。装着した選手が自分の頭を回転するとロッドも回転し、全方向で首に負荷がかかるためこれまでよりもより良く鍛えられるのだという。

2位には紫外線を使ってビタミンDなどの有効物質の体内での生産を増やし、免疫システムや骨の成長を促す技術を開発しているソリウスが選ばれ、2万ドルが贈られている。

パント分析部門では4人の最終候補全員に2万ドルが贈られ、アレックス・ワイグナー氏とハラ・ヤング氏の2人が共同優勝となった。

フェイスブックのデータエンジニアを本業とするワイグナー氏は今回、パントのカバーを行う選手に対し、スナップと同時にダウンフィールドに入ることを許可するルール変更を提案した。これによりフェアキャッチが増え、リターンの数が減ることで約33%の脳しんとうを減らすことができるというのが同氏の主張である。

一方、シカゴ郊外の金融アナリストであるヤング氏は3つの提案を行った。1つ目はフェアキャッチをすると次の攻撃開始地点を捕球位置から5ヤード前進させるというものである。2つ目はガンナーと呼ばれるワイドアウトからパントカバレッジに向かう選手をダブルカバーすることの禁止だ。ヤング氏によればこうした選手の負傷率がやや高いことを発見したのだという。3つ目は選手の減速度を測定するためのヘルメット用センサーの導入である。負傷が発生したプレーはしなかったプレーより減速度が高い傾向があり、ウェアラブル技術を追加することでそうした分析を向上することができるとしている。

両名ともフェアキャッチを増やす提案になっている点は注目される。

こうしたルール変更が実際に導入されるかどうかは未定だが、NFLが抱える課題の解決に向けた策を外部から求めるクラウドソーシングの取り組みは今後も増えていきそうである。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。