コラム

シーズン序盤1勝2敗からのNFL制覇、いかにしてペイトリオッツは修正を施したか

2019年02月10日(日) 08:48


ニューイングランド・ペイトリオッツのトム・ブレイディとジュリアン・エデルマン【AP Photo/Charlie Riedel】

ペイトリオッツが2年ぶり通算6度目のスーパーボウル制覇を達成した。レギュラーシーズン中に1試合平均32.9点を記録したラムズをフィールドゴール1本に抑え込んでの勝利だった。

今季序盤は1勝2敗の苦しいスタートで、シーズン中に2度も連敗を喫するなどおよそいつものペイトリオッツらしからぬ戦いが続いた。ところがレギュラーシーズンが終わってみればチーフスに続くAFC第2シードの座を獲得し、プレーオフを勝ち進んで3年連続のスーパーボウル出場を果たしたのだった。

以前にも書いたが、ペイトリオッツは60分の試合の中でどんなにリードされて劣勢になろうとも決してパニックに陥らず、最終的に1点でも勝っていればいいというメンタリティでゲームに臨む。これが顕著に表れたのが最大25点差をひっくり返してファルコンズを破った一昨年のスーパーボウルだ。

これがシーズンにも当てはまる。シーズン序盤のペイトリオッツはルーキーら新戦力の完成度が低く、チームとしても成熟していない。それが12月に入るころには大きく改善されて安定感を持つ。プレーオフを戦う頃にはほとんどミスのない改正されたチームに成長している。今季も例外ではなかった。

序盤の不振の原因を作ったのはディフェンスだ。最初の10試合で25点以上の失点を許した試合が5つもあった。NFL全体の傾向として高得点をあげるチームが勝ち星を積み重ねる中で、ペイトリオッツはその時流に乗り遅れた。むしろ、その時流の被害を大きく被ったともいえる。

ライオンズのヘッドコーチとなるために退団したマット・パトリシア前守備コーディネーターに代わってプレーコールを担当したのはラインバッカーコーチのブライアン・フローレスだった。フローレスは肩書こそポジションコーチだったが、実質はコーディネーターであり、守備の全権を任されていた。

パトリシア時代から大きくスキームが変わったわけではないが、ディフェンスは苦しんだ。そこでフローレスが取り組んだのはプレーのシンプル化だった。選手に複雑なスキームを覚えさせるのではなく、アサイメントを単純化して本能的なプレーができるようにしたのだ。結果、オフェンスのプレーに対する個々の反応が早くなり、少しずつディフェンスは改善していった。

ディフェンスのメンバーがほぼ固定して戦えたのも大きかった。今季の先発11名が故障で欠場した数はわずか、延べ5試合だったという。固定メンバーでコンビネーションも向上し、継続してプレーすることで選手自身も大きく成長した。昨年ビルズから移籍したコーナーバック(CB)スティーブン・ギルモアもその一人だ。移籍直後はスキームになじめずに苦労したが、今季はカバーCBとして大きく飛躍し、初のオールプロに選出された。スーパーボウルでは勝利をほぼ決定づけるインターセプトで大きく貢献している。

最終的にディフェンスの失点はリーグ7位の1試合平均20.3点にまで改善。昨年が18.5点でリーグ5位だったことを考えると、ほぼ昨年の水準にまで戻した計算になる。この手腕が評価されて、フローレスはドルフィンズのヘッドコーチに招へいされた。

オフェンスではランプレーの導入が転機となった。オフにはワイドレシーバー(WR)ダニー・アメンドーラ、ブランディン・クックスが移籍し、オフェンスラインもレフトタックル(LT)ネイト・ソルダーとオフェンシブガード(OG)キャム・フレミングを失った。WRジュリアン・エデルマンは序盤4試合で出場停止処分を受け、圧倒的に駒の少ない状態だった。

とくにディープスレットの不在はパスオフェンスに深刻な影響を及ぼした。シーズン途中でWRジョシュ・ゴードンを獲得して一時的にその問題は解消されたかに見えたが、間もなく出場停止処分を受けて戦力外となった。

そこでジョシュ・マクダニエルズ攻撃コーディネーターが考案したのはランとのバランスアタックだ。幸いに新人ランニングバック(RB)ソニー・ミシェルの中央突破が威力を発揮し、スタンダードなプレーとしてランを使えるようになった。タイトエンド(TE)ロブ・グロンコウスキーやWRクリス・ホーガンらも、いわゆる“ダーティージョブ”であるランブロッキングに徹した。

ラン攻撃の採用が完成形を見たのがディビジョナルプレーオフとカンファレンスチャンピオンシップだ。両試合ともランを効果的に使ったボールコントロールでチャージャーズとチーフスの攻撃時間を削減し、試合を有利に運んだ。ラン多用のオフェンスは必ずしも高得点を刻めるものではないが、それでも競り勝つ自信を持つまでにチーム力を整えてきたのだ。

これもやはりレギュラーシーズンを17週の長丁場ととらえ、プレーオフにチームのピークがおとずれるように計画的に戦力を整えていくノウハウを持っているからこそできることだ。もちろん、名将ビル・ベリチックがおり、トム・ブレイディという屈指の好パサーがいてこそなせる技だ。どのチームでもまねのできる芸当ではない。

だからこそペイトリオッツは常勝軍団の名にふさわしいのであり、これからもNFLのエリートチームとして君臨し続けるのだろうと思わせるのだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。