コラム

ブレイディ封じへの秘策は? カギを握るフィリップス守備コーディネーター

2019年02月01日(金) 22:12

ロサンゼルス・ラムズのウェイド・フィリップス【Margaret Bowles via AP】

アトランタで行われる第53回スーパーボウルの大きなテーマの1つは世代闘争だ。ビル・ベリチックとトム・ブレイディに代表されるプレーオフ常連のペイトリオッツと、33歳の最年少ヘッドコーチ(HC)であるショーン・マクベイ率いるラムズと若きクオーターバック(QB)ジャレッド・ゴフ――スーパーボウル最年少出場QBとなる見込み――が激突する。

奇しくもベリチックとブレイディがダイナスティを築くきっかけとなった2001年シーズンの第36回スーパーボウルと同じ顔合わせだ。

ラムズが勝てばQBの世代交代を大きく印象付ける結果となる。逆にペイトリオッツが史上最多タイ6つ目のヴィンス・ロンバルディー・トロフィーを手にするようなら王朝の牙城がまだまだ堅固であることが証明される。

これまでスーパーボウルでペイトリオッツと戦ってきたNFCチームが例外なく腐心するのがブレイディ対策だ。正確無比なパスを投げ、どんな場面でも冷静さを失わない稀代の名パサー。ブレイディ封じがスーパーボウル制覇への絶対条件であると言ってもいい。

そして今年、その任を負うのがラムズのウェイド・フィリップス守備コーディネーターだ。名将と言われたバム・フィリップスのもとでコーチングを学び、42年にわたってNFLでディフェンスコーチを務めてきた。

フィリップスの構築するディフェンスは常にリーグトップ10内に入ると言われるほどで、強固な守備を作ることには定評がある。

代行も含めればセインツ、ブロンコス、ビルズ、ファルコンズ、カウボーイズ、テキサンズでHCの経験があり、通算成績は82勝64敗だ。ただし、プレーオフではなかなか勝てず、1勝5敗。HCとしてよりも守備コーディネーターとしての実績の方が輝かしい。

基本のフィロソフィーはパスラッシュが威力を発揮しやすい3-4ディフェンスだが、選手の能力に合わせて4-3も導入するなど柔軟性のある指導をする。特に、選手の特性に合わせたスキームを考えてフィールドで実行するので、選手が能力を発揮しやすく、それだけ不振に陥りにくい。

フィリップスのディフェンスの特徴はアグレッシブさで、パスラッシュがメインのコンセプトだ。サック、インターセプト、ファンブルを積極的に狙っていく。

ここまで書くと、「いや、今年のラムズのディフェンスは総合19位だし、1キャリーごとのランによる喪失距離は最下位じゃないか」との反論が聞こえてきそうだ。それは事実。しかし、その一方でテイクアウェーはリーグ3位の30とフィリップスのディフェンスらしさが発揮されている。失点も1試合平均24点と決して少なくはないのだが、リーグ2位の得点力を誇るオフェンスに助けられて、得失差は8.9点と、これはNFL3位の成績だ。

さて、肝心の対ブレイディだが、フィリップスにとって過去の戦績は芳しくない。ブレイディが先発QBとして台頭する頃には守備コーディネーターもしくはHCとして手腕を発揮していた。チャージャーズ(2004年から2006年)、カウボーイズ(2007年から2010年)、テキサンズ(2011年から2013年)ではそれぞれのチームのHCまたはコーディネーターとして対戦したものの、プレーオフを含めてついに勝てなかった。

フィリップスがようやくブレイディ攻略に成功したのは2015年だ。ブロンコスの守備コーディネーターだったフィリップスはレギュラーシーズンとAFC決勝でブレイディとペイトリオッツを破り、自身初のスーパーボウルリングを手にしたのだった。

フィリップスがスーパーボウルでブレイディと対戦するのはもちろんこれが初めてだ。レギュラーシーズンやプレーオフと違ってスーパーボウルは2週間の準備期間がある。これをフィリップスがどう活用してくるか。

現在のラムズの布陣はディフェンシブエンド(DE)アーロン・ドナルド、ディフェンシブタックル(DT)ダムコング・スー、コーナーバック(CB)アキブ・タリブ、マーカス・ピーターズらオールプロ級が揃う。これらの人材を操ってブレイディ、タイトエンド(TE)ロブ・グロンコウスキー、ワイドレシーバー(WR)ジュリアン・エデルマン、ランニングバック(RB)ソニー・ミッシェルのオフェンスを攻略するのだ。ブロンコス時代もラインバッカー(LB)ボン・ミラー、デマーカス・ウェア、タリブらパスラッシュ、パス守備に長けた人材に恵まれた。タレント的に今のラムズは当時のブロンコスに匹敵するだろう。

アトランタの地に着いたフィリップスはテキサス出身らしくテンガロンハットにブーツ姿の私服で現れた。メディアセッションでも軽口をたたくなど、リラックスした様子がうかがえる。しかし、その頭脳はブレイディとペイトリオッツ対策に激しく回転していることだろう。スーパーボウルという大舞台でブレイディ攻略なるか。フィリップス対ブレイディの、もしかすれば最後となる戦いが始まろうとしている。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。