注目されるクラフトオーナーの今後
2019年03月11日(月) 06:20
ペイトリオッツのロバート・クラフトオーナーの処遇は今後どうなるのだろうか。
クラフト氏は2月25日、フロリダ州のジュピター警察によって買春の罪で訴追された。これは8カ月にわたる中国系の人身売買の一環として、同地の違法マッサージ店を監視したところ、撮影された映像にクラフト氏の姿が2度映っていたことから発覚したもの。1回はペイトリオッツがチーフスを下して第53回スーパーボウル進出を決めたAFCチャンピオンシップ当日の朝だったという。クラフト氏は2つの第一級軽犯罪で起訴されたが、罪状認否では無罪を主張している。同罪では最大で禁錮1年の刑、あるいは罰金5,000ドル、もしくは社会奉仕活動が言い渡される可能性がある。NFLによる制裁は別だ。
ただNFLのチームオーナーが問題を起こしたのはクラフト氏が初めてではない。昨年にはパンサーズのジェリー・リチャードソン前オーナーが職場で性的差別や人種差別の言動があったことを原因に、デビッド・テッパー現オーナーにチームを売却したことは記憶に新しい。またコルツのジム・アーセイオーナーは2014年に飲酒運転と麻薬所持の疑いで逮捕された。アーセイ氏は有罪となり、1年間の保護観察処分を言い渡され、NFLは50万ドルの罰金と6試合の活動停止処分を科した。
また、昨年逝去したテキサンズのボブ・マクネア氏は2017年、選手たちによる国歌演奏時の人種差別への抗議行動について会議で「囚人に刑務所を管理させてはならない」と発言したことで批判され、謝罪に追い込まれた。バイキングスのジジ・ウィルフオーナーとブラウンズのジミー・ハスラムオーナーは共に顧客やビジネスパートナーに対する詐欺を働いた過去がある。さらに所有権の相続では近年セインツが、ブロンコスに至っては現在も揉めている最中だ。ブランドイメージを非常に大切にするNFLのオーナーでもトラブルは多いのである。
クラフト氏は1994年に当時史上最高額の1億7,200万ドルでペイトリオッツを買収し、オーナーとなった。以降、史上最多タイのスーパーボウル6回優勝の強豪に育てることに成功。チームの総資産はカウボーイズに次ぐ38億ドルにまで拡大している。経済誌『Forbes(フォーブス)』によると、数多くの企業を経営するクラフト氏の保有資産総額は66億ドルに達するという。また民主党支持者ながらトランプ大統領の親友としても有名だ。
そんなクラフト氏に対するNFLによる制裁だが、まず考えられるのは罰金だろう。性的差別や人種差別発言の証拠が見つかったリチャードソン氏に対してリーグは275万ドルの罰金を科したことがある。ただクラフト氏の場合、今回の罪では有罪になってもリーグのルールでは最大でも50万ドルとなる、という声もあるようだ。活動停止処分に関しては、この制裁を受けたオーナーは過去アーセイ氏だけである。
それ以上にクラフト氏がオーナー達の中でも大物であることが影響するのでは、という懸念も多い。クラフト氏は財政、放送と労働を含む主要な委員会のメンバーとなっているのだ。2011年に結ばれた現労使協定の交渉においてオーナー側の中心的役割を担ったのがクラフト氏である。またNFLの最大の収益源となっているテレビ中継契約の交渉でも主な交渉役を担ってきた。なによりロジャー・グッデルNFLコミッショナーの後ろ盾となってきたのが他ならぬクラフト氏でもある。
そんなクラフト氏にどれだけの制裁を科すことができるか。もちろんクラフト氏に反目するオーナーがいることも知られており、そうしたオーナー達は訴追が発表された後の24日に開催されたアカデミー賞のパーティーにクラフト氏が出席したことに反省がないとして批判しているという。
今回の問題はいろいろと後を引くことになるかもしれない。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。