コラム

早くもオフの勝ち組か? 積極的補強のブラウンズ

2019年03月17日(日) 09:17

ニューヨーク・ジャイアンツのオデル・ベッカム【AP Photo/Jason E. Miczek】

新リーグイヤー幕開けの最大のニュースはジャイアンツのワイドレシーバー(WR)オデル・ベッカムのブラウンズへのトレードだろう。交換条件は今年のドラフトの1巡(全体17位)、3巡(同95位)指名権に加え、セーフティ(S)ジェイブリル・ペッパーズだ。

さらにブラウンズは元チーフスのタイトエンド(TE)デミトリアス・ハリスの獲得にも乗り出しているようだ。

オフに入ってからのブラウンズは暴行事件が発覚してチーフスから解雇されたランニングバック(RB)カリーム・ハントと契約するなど積極的な補強を続けている。2017年から人事面の指揮を執るジョン・ドーシーは昨年までのドラフト中心のチーム作りから一転してベテラン選手の獲得に力を入れている。

ブラウンズはNFLで現在最も長くプレーオフから遠ざかっているチームだ。最後のプレーオフ出場が2002年シーズンで、それ以降勝ち越しシーズンが2007年(10勝6敗)の一度しかない。2017年にはライオンズに続く史上2例目のシーズン16戦全敗を経験した。

昨季も7勝8敗1分でまたも負け越したが、過去4年では最多勝利でシーズン終盤までかろうじてプレーオフ出場の可能性を残した。何よりも新人クオーターバック(QB)ベイカー・メイフィールドが出場した全試合でタッチダウンパスを成功させる活躍を見せ、将来に期待を抱かせる成長を遂げた。

長年不在であったフランチャイズQB候補が誕生したことで、がぜんブラウンズの未来は明るくなった。メイフィールドだけではない。RBニック・チャブ(2018年ドラフト2巡)、TEデビッド・ナジョーク(2017年ドラフト1巡)、ディフェンシブエンド(DE)マイルズ・ギャレット(2017年1巡全体1位)、ディフェンシブタックル(DT)ラリー・オグンジョビ(2017年3巡)といった近年のドラフト指名選手が先発に定着し、かつ中心選手としての活躍をしている。

これに手ごたえを感じたドーシーは今こそベテランの実力者を投入することで一気にプレーオフを狙えるチームにする方針を打ち出したのだ。その切り札がベッカムであり、ハントである。

この「win now(勝つのは今)」をスローガンとした、積極的にフリーエージェント(FA)やトレードを活用したチーム作りは2012年にペイトン・マニングを獲得した時のブロンコス、最近のラムズに見られる手法だ。いずれもスーパーボウルに出場するなど成果を上げているが、他方でベテラン選手の年俸が高騰するなどの弊害も招く。

ブラウンズがこのオフに積極的な補強を行っているのは今こそAFC北地区で覇権を争うチームになるチャンスと判断したからだ。WRアントニオ・ブラウンズとRBレビオン・ベルの退団で「キラーB」が崩壊したスティーラーズ、不振が続くベンガルズ、QBをラマー・ジャクソンに替えるレイブンズなどライバルチームに変革がおとずれる中、今季こそブラウンズが雌伏の時を終えるシーズンなのだ。

ブラウンズ自身も新ヘッドコーチ(HC)にフレディー・キッチンズ(前RBコーチ、攻撃コーディネーター)を迎えて新体制となる。それでもQBメイフィールドが順調に成長を続けるなら長い低迷期に終止符を打つことは十分に可能だ。単に積極的なだけではなく、これまでの実績をもとにしたベテラン選手の獲得はブラウンズの復活への期待を抱かせる。今年のブラウンズは楽しみだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。