コラム

FA市場解禁間近、人材豊富なポジションは?

2019年03月11日(月) 03:20

ダラス・カウボーイズとシアトル・シーホークス【AP Photo/Michael Ainsworth】

2018年いっぱいで契約が満期を迎えてフリーエージェント(FA)となる選手への独占交渉権獲得を意味する“フランチャイズ指名”の期限が過ぎ、いよいよFA市場が解禁となる。

デマーカス・ローレンス(カウボーイズ)、ジェイデボン・クラウニー(テキサンズ)、フランク・クラーク(シーホークス)、ディー・フォード(チーフス)らは予想通りにそれぞれの所属チームからフランチャイズ指名を受けた。興味深いのは彼らがすべて有能なパスラッシャーであることだ。

パスラッシャーの価値は年々上がる一方で、4-3ディフェンスのディフェンシブエンド(DE)や3-4隊形のアウトサイドラインバッカー(OLB)は年俸が高い。また、一般に平均年俸はLBよりもDEの方が高いため、OLBの範疇(はんちゅう)に入る選手でもフランチャイズ指名を受ける際はDEとしての評価を求めるケースがある。

今年の大学ドラフトはエッジラッシャーに有能な人材が多いとされており、それが上記の選手たちの契約延長交渉にどう影響するかは注目に値する。

一方で注目されたジャイアンツのセーフティ(S)ランドン・コリンズはフランチャイズ指名を受けなかった。パスカバーよりもラン守備を得意とするコリンズはジャイアンツにとって、年俸1,100万ドル以上を約束して慰留するほどの人材ではなかったということだ。

今年のFAではSにビッグネームが揃う。これも珍しいことだ。コリンズのほかシーホークスと仲たがいの形で袂を分かったアール・トーマス、レイブンズからリリースされたエリック・ウェドル、ハードヒットで知られるタイロン・マッシュー、パッカーズで活躍したハハ・クリントンディクスらだ。いずれもかつてはオールプロ、プロボウル級のパフォーマンスを披露した選手だ。

ただし、これらの選手がネームバリューに見合う新契約を得られるかどうかは不透明だ。ウェドルやマッシューのようにピークを過ぎた感が否めないことも理由の一つだが、それ以上に現在のNFLでSに求められる資質に合致するかが問題となる。

オフェンスはワイドレシーバー(WR)とタイトエンド(TE)を区別する垣根が低くなり、ランニングバック(RB)も当たり前にレシーバーとしてプレーする今日のNFLにおいてディフェンスにも多様性が求められる。その中でマルチな能力を要求されるのがSだ。

WR、TE、RBの多様性にアジャストする、すなわちスピードあるレシーバーをカバーし、体格に優れた選手とフィジカル面で対等に競い、ランプレーにも対応するためにはコーナーバック(CB)やLBにではなくSに進化を求めるのが今のNFLだ。だから、ラン守備だけに評価を受けるコリンズはジャイアンツにとって高年俸に値しなかったのだ。

現在の守備スキームではストロングセーフティ(SS)とフリーセーフティ(FS)の差がほとんどなく、またプレーによってはLBに近い働きが要求される。前述の選手のうち、これに当てはまる人材がどれだけいるか。

もちろん、全てを兼ね備えたSを発掘するのは極めて難しく、NFLでもそれほど多くいるわけではない。ほとんどのチームは理想を追い求めながらも妥協しながらやりくりしているに過ぎない。しかし、トーマスやウェドルらはいずれもNFLトップクラスのSとの評価を受けたことがある。こうした選手は過去の名声が年俸の高騰につながるから、サラリーキャップに余裕のないチームは獲得を躊躇してしまう。

結果として予想外の低年俸で妥協を余儀なくされるケースも少なくない。今年のFA市場ではSは人材豊富に見えて実はネームバリューが足かせになる買い手が有利な市場となるかもしれないのだ。

今季も多くのチームで新守備コーディネイターが誕生した。こうした新コーディネイターはかつて在籍したチームで指導したベテラン選手を呼び寄せたがる傾向がある。自分のスキームを浸透させるのに助けになるからだ。これが彼らの価値を再認識させるきっかけになればいいが、場合によっては厳しい市場を経験することも覚悟しなければいけない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。