コラム

NFLのFA制度を解説

2019年03月25日(月) 08:10


フィラデルフィア・イーグルスのニック・フォールズ【AP Photo/Mark Tenally】

アメリカ東部時間3月13日16時に開始された今年のフリーエージェント(FA)市場。すでに新たなチームと大型契約を結んだ有力選手が複数おり、例年になく活発な動きとなっている。今回はそのFA制度について今一度紐解いてみたい。

まずNFLにおけるFA制度の歴史だが、望むチームと自由に契約する権利を得たい選手および労働組合である選手会の動きは1960年代から活発になったものの、オーナーたちは移籍の拒否権などを維持し続けた。ようやくFA制度が導入されたのが1989年である。ただこの時採用されたのは「プランB」と呼ばれる制度だった。なぜプランBというかというと、本来双方が望んだ制度ではなく、妥協した代替案の採用となったからだ。プランBではチームがFAとなることを認めない「プロテクト」を37人の選手にかけることができたのである。

しかし8人の選手が裁判を起こし、1992年にプランBが独占禁止法に違反していると認定されたことによって、1993年から現在のFA制度が導入されることとなったのだ。今回は541人の選手がFAとなっている。

FAには3種類の資格がある。1つ目は制限FAだ。制限FAは6試合以上登録されたシーズンを3回経験して契約満了となった選手で、FA契約期間中自由に契約交渉ができるが、所属していたチームは新たなチームが出した契約条件と同じ条件を示せばその選手を保持し続けることができる。条件を示さず移籍が実現すると元のチームには補償としてその選手の活躍度合いで判定される順位のドラフト指名権が与えられる。契約期間をすぎると選手が契約交渉できるのは元チームのみとなるのだ。今回の交渉期限は4月19日までだ。

2つ目は非制限FAだ。非制限FAは登録シーズンを4回以上経験して契約満了となった選手が得られる。非制限FAはどのチームとも契約交渉でき、元のチームにドラフト指名権の補償が与えられることはない。現在のドラフト制度では契約条件が1巡指名だと最長4年と1年のオプション、2巡以降は最長4年に制限されている。それとの関連を考えると興味深い。

3つ目は非ドラフトFAである。これはその年のドラフトで指名されなかった新人選手で、どのチームとも契約交渉できる。ドラフト終了直後に、各チームが可能性を認めた複数のUFAと契約ラッシュを繰り広げるのは毎年の光景だ。

チームが有力選手のFA移籍を阻止したり、しにくくしたりする制度も設けられている。フランチャイズプレーヤー、トランジションプレーヤーだ。フランチャイズプレーヤーには独占と非独占の2種類があり、独占に指定されるとどのチームとも交渉することが許されない。その代わりその選手のポジションの年俸の上位5選手の平均年俸か前年度年俸の120%のどちらか高額な方の金額の年俸での1年契約となる。

非独占フランチャイズプレーヤーは自由に契約交渉できるが、移籍が実現すると移籍先のチームは補償としてドラフト1巡指名権2つを差し出さなければならない。

トランジションプレーヤーは元のチームから1年契約でポジションの俸の上位10選手の平均年俸か前年度年俸の120%のどちらか高額な方の金額が保証される。他チームとの契約交渉はできるが、元のチームは新たなチームが示した条件と同じ条件で引き留める優先権を持つ。ただ優先権を行使しなかった場合補償は受けられない。

チームはフランチャイズまたはトランジションの選手を1名指名(タグ付けと呼ばれる)できるが、選手との関係がぎくしゃくすることも多く、指定するかどうかも重要な戦略となっている。今回ファルコンズのディフェンシブタックル(DT)グレイディー・ジャレットやカウボーイズのディフェンシブエンド(DE)デマーカス・ローレンスなど6人が非独占フランチャイズプレーヤーに指定されている。

こうしたFA制度を知り、ぜひホットなオフシーズンを堪能してもらいたい。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。