ベンガルズのQBダルトン降格でいよいよ加速する『QBデフレ時代』
2019年11月03日(日) 07:45開幕から8連敗となったベンガルズは2011年から先発クオーターバック(QB)を務めてきたアンディー・ダルトンに代えて次戦から新人のライアン・フィンリーを起用すると発表した。ベンガルズはシーズン第9週がバイウイークであるため、11月10日(日)に行われるレイブンズ戦がフィンリーのデビューとなる。
これにより、少なくとも過去4年以上チームの先発として活躍しながら今季にその職を失ったQBはイーライ・マニング(ジャイアンツ)、マーカス・マリオタ(タイタンズ)に続き3例目となった。
こうした降格QBたちはまず間違いなく翌シーズンには移籍する。昨年のアレックス・スミス(チーフスからレッドスキンズ)や今年のジョー・フラッコ(レイブンズからブロンコス)がいい例だ。ただし、彼らにとって「再就職口」は必ずしも多くない。スターターの座にこだわるのならばなおさらだ。
近年のNFLは先発QBに決まった人材がいることが多く、需要が少ない。来季に新たな先発QBが必要になるチームを予想すると、最有力はドルフィンズだ。フィンリー起用が失敗に終わればベンガルズもその範疇に入るかもしれない。ただ、ともに現在全敗中で、来年のドラフトでは1巡高順位の指名権を獲得する可能性が高い。フリーエージェント(FA)よりもドラフトで有望なQBをとることになるかもしれない。
ブロンコスがもしフラッコに見切りをつけるならばやはり新たなQBが必要となる。ジェネラルマネジャー(GM)ジョン・エルウェイは他チームで実績をあげたベテランQBを好む傾向があるから、FAにとっては移籍候補の1つとなる。万が一、マニングが入団することになれば兄ペイトンに続く兄弟でのブロンコスQBとなって話題性はある。可能性はかなり低いとは思うが。
バッカニアーズのジェイミー・ウィンストンはブルース・エリアンズ新HC(ヘッドコーチ)の下で再生したかに見えたが、肝心の勝ち星がついてこない。今季限りとなる懸念はある。妄想に近い仮定の話になってしまうが、エリアンズがかつての教え子であるベン・ロスリスバーガーをスティーラーズから譲ってもらうというシナリオもないではない。
ロスリスバーガーは肘のケガで今季絶望となった。その間にメイソン・ルドルフが徐々にではあるが先発QBとして成長しており、今季の成績いかんでは世代交代も現実味を帯びる。スティーラーズは来年のドラフトで1巡指名権を持たないため、バッカニアーズが提示する条件次第ではビッグベンの放出もあるか。もう一度断っておくが、あくまでも妄想に近い発想である。
話を現実的な方向に戻そう。上記のチーム以外は不動の先発QBが存在するか、育成中の若手を擁する。高い年俸を払ってまでFAの元先発QBを獲得する必要はないのだ。
例外があるとすればセインツか。ドリュー・ブリーズは今季が2年契約の最終年でバックアップのテディ・ブリッジウォーターも来年3月にFAとなる。ブリーズは来年の契約がオプションとなっているが、不行使の可能性も残される。契約内容に忠実であればセインツが新QBを求める選択肢もあるが、実際問題としてそれならばブリーズとの契約延長を考慮するだろう。
ブリッジウォーターはブリーズ欠場の間の5試合をすべて勝ち、評価をあげた。先発またはバックアップ候補としてほかのチームから声がかかることは十分に考えられ、ドルトンやマニング(彼らが移籍すると仮定すれば)の手ごわい競合相手となる。
先発の座を失ったQBがほかのチームでのバックアップ職を受け入れるのであれば話は変わる。若手QBにとっては格好のメンターになるため、引きは少なくないだろう。バックアップであっても今年のタネヒルやブリッジウォーターのように先発出場のチャンスが巡ってこないとも限らない。
数年前には考えられなかったほど今は先発QBの需要が少ない。マニングやダルトンのようにチームを複数回プレーオフに導いたQBですらスターターの座を失えばNFLでの居場所がなくなるかもしれないのだ。実績あるQBですらその価値が認められない、まさにQBのデフレ時代だ。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。