QBカズンズを再生させたステファンスキー攻撃コーディネーターの手腕
2019年11月24日(日) 21:58バイキングが好調だ。シーズン序盤こそディビジョンライバルのベアーズとパッカーズに敗れて2勝2敗のスタートだったが、その後は4連勝を含む6勝1敗でシーズン第12週のバイウイークを迎える。
好調の要因はオフェンス、ディフェンス、スペシャルチームの3要素がすべて安定していることだ。リーグでトップ10に入るような成績でこそないが、目立った弱点もないため試合が大きく崩れることがない。
突出しているのはクオーターバック(QB)カーク・カズンズのパサーレーティングだ。第11週終了時点で114.8、シーホークスのラッセル・ウィルソンにわずか0.1ポイント差のリーグ2位だ(パス試投数50以上)。カズンズの過去の年間パサーレーティングの最高値が101.6(2012年と2015年、ただし、2012年はパス試投が48回のみ)だから、今季がいかに好調であるかがわかる。
タッチダウンパスが21個あるのに対し、被インターセプトがわずか3しかないことが高いレーティングをマークする理由となっているが、その背景にはケビン・ステファンスキー攻撃コーディネーターのプレーコールも影響しているだろう。
ステファンスキーは昨年途中にオフェンスの成績不振で解雇されたジョン・デフィリポ前コーディネーターの代行に指名された。それまではQBコーチだった。今シーズンから正式にコーディネーターに昇格している。
ランニングバック(RB)にダルビン・クックがいることもあってステファンスキーはラン強化の方針を打ち出した。これはデフィリポとは真逆のやり方だ。デフィリポは強肩のカズンズがフリーエージェント(FA)で加入したことを受けてパス中心のオフェンスを作ろうとした。それが不発だったため、方針転換に迷いはなかった。
とはいえ、パスのうまいカズンズを活用しないのは宝の持ち腐れである。そこでステファンスキーが考案したのがスクリーンとロールアウトからのパスを多用するスタイルだ。スクリーンは被インターセプトの危険が少ないだけでなく、オープンスペースでクックの総力を活かしやすい。ロールアウトはパスラッシュを回避しつつレシーバーがディープに走る時間を稼ぐことができる。カズンズはウィルソンやパトリック・マホームズ(チーフス)ほどではないがポケットの外に出てパスを投げるのがうまいQBだ。彼の持ち味の一つといっていい。
ステファンスキーはスクリーンのような安全なプレーコールばかりではなく、アグレッシブなプレイも見せる。アダム・シーレンやステフォン・ディッグスのようなディープスレットの見せ場も十分に作るのだ。
ステファンスキーのバイキング在籍は長い。ブラッド・チルドレスがヘッドコーチ(HC)に就任した2006年にアシスタントコーチとして入団し、以後、HCがレスリー・フレイジャー、マイク・ジマー(現)と替わってもチームに残り、タイトエンド(TE)やRBコーチを務めた。フレイジャーとジマーがディフェンス畑の人材ということもあるが、HCが交代しても慰留されるということはそれだけ能力が認められた証左である。
在籍が長いだけに選手の特徴もよくとらえている。それがあるから、思い切ったプレーコールをして成功できるのかもしれない。
現在バイキングスはNFC北地区でパッカーズを追う。第16週の2回目の直接対決が首位攻防戦となる見込みだが、地区優勝を逃してもワイルドカードでのプレーオフ出場は十分に射程圏内だ。バイキングスの好調が続けばステファンスキーの注目度も上がり、来年には他のチームのHC候補の一人に数えられるかもしれない。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。