コラム

『絶滅危惧種』のFBを再認識させるカイル・ユーズチェックの存在感

2020年01月25日(土) 08:42

サンフランシスコ・49ersのカイル・ユーズチェック【Peter Read Miller via AP】

日本時間2月3日(月)にフロリダ州マイアミで開催される第54回スーパーボウルの対戦カードは50年ぶり3回目の出場となるチーフスと7年ぶり7回目となる49ersに決まった。スーパーボウルでの対決は初めてで、勝敗予想も難しい好カードだ。

アメリカでは超プラチナの価値がつく観戦チケットの転売価格は史上最高額の68万円をつけた上、さらに上昇傾向にあることから過去にないほどの価格を記録しそうだ。半世紀ぶりにリーグ制覇を目指すチーフスと、全米でまんべんなく人気を誇る49ersの顔合わせなのだから注目を浴びるのもうなずける。さらにクオーターバック(QB)パトリック・マホームズ(チーフス)、ディフェンシブエンド(DE)ニック・ボサ(49ers)、タイトエンド(TE)ジョージ・キトル(49ers)などNFLを代表する旬な選手が勢ぞろいするのも人気が高まる理由だろう。

マホームズやボサほどの知名度はないかもしれないが、安定した活躍で脚光を浴びるのが49ersのフルバック(FB)カイル・ユーズチェックだ。筆者が試合解説を担当したディビジョナルラウンドとNFCチャンピオンシップで、何度ユーズチェックの名前を出してそのプレーをたたえたか知れない。

ユーズチェックが最もチームに貢献するのはそのリードブロックである。ランニングバック(RB)ラヒーム・モスタートはNFCチャンピオンシップで220ランヤード、4タッチダウンと驚異的な数字を残したが、そのランには必ずと言っていいほどユーズチェックのリードブロックがあった。

モスタートを先導する形でバックフィールドからラインバッカー(LB)やディフェンシブバック(DB)をブロックすることもあれば、ハーフバックの位置からディフェンシブライン(DL)に対してブロックを放つときもある。ブロッキングばかりではない。早いタイミングのダイブプレーでボールキャリーもするし、フランカー(FL)の位置にセットしてパスコースに出ることだってある。

NFLにおいてFBは減りつつある。ペイトリオッツやライオンズのようにロースター上に真のFBを置かないチームも増えてきた。必要に応じてTEをFBとして起用するチームもある。攻撃スタイルがパスに偏重するにしたがって、ランブロッキングを主な仕事とするFBの必要性は少なくなる一方で、言わば「絶滅危惧種」なのである。

49ersは2バックフォーメーションをコンスタントに使う数少ないチームのひとつだ。それも、まるで1970年代のフットボールかと思うくらいにゴリゴリのランニングオフェンスを展開する。そこで生きてくるのがユーズチェックのリードブロックだ。

ユーズチェックはハーバード大学出身で2013年にドラフト4巡指名を受けてレイブンズに入団した。当時の契約は総額246万ドルの4年契約だ。4巡指名にしては少ない金額で、FBの価値がほとんど評価されていなかったことが分かる。

しかし、レイブンズでブロックやパスレシーブで着実に貢献するに従い、彼自身の価値も高まった。2017年にフリーエージェント(FA)で49ersに移籍した際の契約はNFLのFB史上最高額となる2,100万ドルの4年契約だった。年俸総額は実に10倍近くに跳ね上がったのだ。

スーパーボウルでもユーズチェックのランブロッキングは試合を左右するカギの一つとなる。彼は2年後に契約満了を迎えるが、おそらく来年中には契約延長を手にするだろう。その際はさらに大型契約を提示されるかもしれない。それだけの実績は十分に手にしてきた。それにスーパーボウルリングが加われば将来の殿堂入りも夢ではないだろう。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。