コラム

屈指の好カード! 第54回スーパーボウル展望

2020年02月01日(土) 13:28

ハードロック・スタジアム【AP Photo/David J. Phillip】

50年ぶり2度目のリーグ王座か、25年ぶり6度目の戴冠か。チーフスと49ersの対決がいよいよ迫ってきた。半世紀にわたる雌伏の時を超えて大舞台を迎えるチーフスと、黄金時代の復活を予感させる新生49ers。ともにプレーメーカーが多くそろい、戦術的にも充実した2チームで、とにかく勝敗予想が難しい。そして、スーパーボウルでは初めて実現するフレッシュな顔合わせだ。この好カード、どのような展開が待っているのか。

チーフスオフェンス対49ersディフェンス

チーフスのオフェンスはとにかく得点力が高い。プレーオフの2試合――テキサンズ戦では0対24から、タイタンズ戦では0対10からあっさりと逆転勝ちをしてしまったことでも明らかだ。

その理由は各スキルポジションに存在するプレーメーカーたちだ。抜群の運動能力を持つクオーターバック(QB)パトリック・マホームズをはじめ、スピードのあるワイドレシーバー(WR)タイリーク・ヒル、キャッチ力とブロック力に長けたタイトエンド(TE)トラビス・ケルシー、どれをとっても守備コーディネーターの頭を悩ます存在だ。

一方の49ersディフェンスは強力なパスラッシュで数々の好パサーを粉砕してきた。クイックリリースのドリュー・ブリーズ、プレーアクションパスの得意なカーク・カズンズ、機動力のあるアーロン・ロジャースらはいずれも新人ディフェンシブエンド(DE)ニック・ボサを中心とするパスラッシュに悩まされた。

チーフスが49ersを攻略するにはこのパスラッシュを封じることだ。そのために効果的なのがランプレーである。プレーオフではデイミアン・ウィリアムズが孤軍奮闘だったが、ルショーン・マッコイが復帰できれば心強い。また、ヒルやWRサミー・ワトキンスのジェットスイープ、エンドアラウンドなども有効だ。

49ersはマホームズのコンテインが不可欠だ。パスラッシュでプレッシャーを与えても、ポケットから飛び出して脚力でプレーメークできる逸材だ。それがゲームを左右するビッグプレーになることもある。ヒル、ケルシー、WRデマーカス・ロビンソンらマークすべきレシーバーが多いため、「スパイ」を張り付けるのも難しい。ロバート・サラ守備コーディネーターがこの2週間でどのような対策を立ててくるかが注目される。

49ersオフェンス対チーフスディフェンス

プレーオフ2試合はテビン・コールマンとラヒーム・モスタートの2人のランニングバック(RB)の活躍により、ほとんどランのみでバイキングスとパッカーズを倒したため、49ersといえばランゲームの印象が強い。事実、ランの使用率はNFLで最も高いため、間違いではない。しかし、ジミー・ガロポロのパスを「温存」してここまで来たところに49ersの強みがある。チーフスにとっては未知の領域だからだ。

ただし、NFC決勝でコールマンが肩を負傷してスーパーボウルで出場できるかは分からない。マット・ブリーダの出場機会が増えるとともにパッシングアタックの割合も増えるだろう。

チーフスのディフェンスは経験豊富なベテランがそろう。コーナーバック(CB)ラシャド・ブリーランド、セイフティ(S)タイラン・マシュー、そして12月に加入したばかりのDEテレル・サッグスらだ。劣勢になってもパニックに陥らず、若手選手をうまく指導している。サッグスは練習の合間にまるでコーチのようにテクニック指導をしているそうだ。スティーブ・スパグニューロ守備コーディネーターの変幻自在なスキームの理解と浸透にも一役買っている。

カギを握るのは49ersのランだ。チーフスはこのランを止めることが先決だが、TEジョージ・キトルやRBカイル・ユーズチェックら名ブロッカーがいるだけに簡単ではない。そして、パッシングアタックでは見ごたえあるバックフィールドの攻防が期待できる。WRディーボ・サミュエル、WRエマニュエル・サンダースはいずれもディープスレッドで、アンダーニースはキトルが攻め込む。これをスパグニューロ流のパスラッシュでいかに対抗するか。

スペシャルチーム

両チームともにスペシャルチームは安定している。今季のNFLはキッカー(K)の不振が目立ったが、チーフスのハリソン・バトカー、49ersのロビー・ゴールドともに着実にフィールドゴールを決めてきた。キックリターンではプロボウルに選出されたメコール・ハードマンを擁するチーフスが有利か。

どちらがヴィンス・ロンバルディー・トロフィーを掲げてもおかしくない。最後まで手に汗握る熱戦を期待したい。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。