コラム

コロナ禍でタフさが増す代理人の仕事

2020年09月20日(日) 08:33


フィールドに置かれたフットボール【Aaron M. Sprecher via AP】

新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、NFLではプレシーズンが全廃され、選手やスタッフは連日検査を受け、試合は無観客や収容人数を大幅に削減するなど、さまざまな対策がとられている。その一方でエージェント、代理人の仕事にも影響が出ているようだ。エージェント企業、バンガードスポーツグループのジョビー・ブラニオンCEOがスポーツビジネス・ジャーナル誌に明かしている。

ブラニオン氏が最近まとめた大きな仕事が9月に結ばれたチャージャーズのワイドレシーバー(WR)キーナン・アレンの4年8,010万ドル、保証額5,000万ドルの大型契約だ。この契約もパンデミックの影響があるという。

アレンは2016年に合意した4年4,500万ドルの契約が今年最終年を迎えていた。そのため新たな契約に向けて交渉が進んでいたのだが、パンデミックにより今年NFLの観客数が大幅に減ることと、来年チャージャーズがアレンにフランチャイズタグを付けて1年契約に持ち込む可能性を考慮したという。「全てでないにしても、ファンからの収益の大部分が失われ、来年のサラリーキャップに影響が出ることがわかっています。これは間違いなくフランチャイズタグが付けられるキーナンのような人物のフランチャイズタグの額に影響を与えるでしょう」と同氏は語っている。

サラリーキャップは選手年俸総額の上限を定めたもので労使協定によってリーグの収益からその額が規定されている。ただ、パンデミックを受けて7月にNFLとNFL選手会(NFLPA)が合意した修正版の協定では、今年に生じる損失について今年はキャップの減額はせず、2021年から2024年の4年間で相殺させることとなったのだ。これにより来年はサラリーキャップが減額されると判断したのである。

非独占フランチャイズタグが付けられた場合、年俸はその選手のポジションの年俸の上位5選手の平均年俸か前年度年俸の120%のどちらか高額な方の金額となる。今年、WRの上位5選手の平均年俸は1,780万ドルで、例年通りならさらに上がると見られていた。それが逆に下がるだろうと判断したのである。

「もし今年が例年通りなら、“OK、彼は1,050万ドルでプレーしていて、来年は2,000万ドルでタグ付けされるだろう”と考えるでしょう。“今年は1,050、来年は2,000のギブアンドテイク、2年で3,000だ”と言うでしょう。でも初めて、サラリーキャップが減るんです」と考えたのだという。

さらに状況が混沌としていることも交渉に影響したという。「われわれは分かっていない。これは来年も続くのか? マーケットはただ低迷しているだけなのか?」そうした中での難しい決断となったようだ。

この判断はたしかに難しいものがある。今年は減額せず、来年以降で相殺することで合意した裏にはNFLもNFLPAも現在行われているテレビ放映権交渉で、契約金額が大幅に増えるだろうと予想し、損失の相殺どころかサラリーキャップが増額する可能性も高いと見込んでいるからだ。ブラニオン氏はギャンブルに出たともいえる。

一方で、有力WRが5年契約を結ぶ例が多い中、今回4年としたのも戦略だという。現在アレンは28歳で、新たな契約の最終年は31歳で臨むことになる。健康を保っていればもう一度大型契約を結ぶことが可能と考えており、その頃にはパンデミックから経済は回復しているだろうと予想しているのだ。

さらにブラニオン氏は新型コロナウイルス感染に対する選手の対処についてもアドバイスしたという。4月に感染を公表したブロンコスのラインバッカー(LB)ボン・ミラーについてだ。

ブラニオン氏はミラーの陽性が判明した日に電話で、ミラーに公表しなくてもいいし、黙秘してもいいと話したという。黙秘してもいいと伝えることが重要だったとしている。

「その上で、“みんな、自分は30歳で試合のトップに立っているが、陽性になった。感染しないようにしていた。このことを真剣に受け止めてください”と話しました。そして彼への信頼のため、彼は公表することを望んだんです。それが理由です。もし、ボン・ミラーというスーパーマンが克服できるなら、誰でも克服できます」と経緯を打ち明けている。

コロナ禍にあっては代理人も難しい舵取りを続けることを要求され続けている。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。