新スタジアムで無観客開催のラムズが実施するデジタル策
2020年11月02日(月) 06:51今シーズン、ラムズは完成したばかりの本拠地SoFiスタジアムにファンを迎え入れて、華々しい試合を開催する予定だった。同スタジアムはラムズオーナーのスタンリー・クロエンケ氏が率いるクロエンケ・スポーツ&エンターテインメントが中心となって建設したもので、7万人収容の屋内型スタジアムだ。特徴的な外観だけでなく、120ヤードの長さを誇るリング型の大型スクリーンや最新のWi-Fi6網など最新の機器が揃い、豊富な商業施設などは来場したファンに新たな観戦体験を与え、ファンの関心を高めてくれるのは確実である。
しかしながら、現実はそうはならなかった。
新型コロナウイルスの大流行により、全米で最も感染者が多いカリフォルニア州では250人以上の集会が禁止され、同居するチャージャーズと共にラムズは無観客での試合開催を強いられている。
そこでファンの関心をつなぎ止め、さらに深くするためにラムズが行っているのがデジタル施策だ。チームのモバイルアプリとウェブサイトを通じて、チームの魅力を増しつつ、ソーシャルディスタンシングも確保できるコミュニティでファンと直接つながれる機会も作ろうというのである。メインは『ゲームデー・アット・ホーム』と『ラムズハウス・バーチャルエクスペリエンス』という2つの新しいデジタル体験サービスと2年目の『ラムズピック』コンテストだ。
ゲームデー・アット・ホームはテレビ中継を観つつ、スマートフォンやPCといったセカンドスクリーンと呼ばれる別の画面でゲームやビデオ、チャットなどを楽しめるというもの。NFLがセカンドスクリーン用サービスをチームに認可したのはこれが初である。
例えば試合開始前、スタジアムのビデオスクリーンに表示される選手紹介ビデオなどが同時に同サービスのスクリーンにも表示される。試合中にはチームの応援曲をスタジアムでバンドが演奏すればその様子が表示され、拍手ボタンを押すとその数に合わせた音量の拍手音がスタジアムで流されたりもする。ラムズの雑学クイズが行われるだけでなく、チームのデジタル担当レポーターがチャットルームに参加するのも特徴だ。チャットはコンテンツを見ながら行えるようになっており、特に人気だという。ラムズによれば平均利用時間は45分とのこと。
このゲームデー・アット・ホームは海外からも登録、利用できるようになっており、日本からもSMS(テキストメッセージ)を利用できるスマートフォンを使えば利用登録が可能なので、ラムズファンなら利用してはどうだろうか。(詳細: http://www.ramsathome.com/)
ラムズハウス・バーチャルエクスペリエンスは拡張現実(AR)を使ったバーチャルなスタジアムツアーサービスだ。ラムズとしては本来新スタジアムをファンに公開するツアーを展開したいところだが、現状実施できないのでバーチャルで、というわけである。
同サービスではクオーターバック(QB)ジャレッド・ゴフが登場し、普段は入れないロッカールームやフィールドを見学でき、コンコースを歩き回ったり、豪華なスイートボックスの席に座ったり、巨大ビデオスクリーンや透明な屋根越しにカリフォルニアの青空を見ることもできるようになっている。マリッサ・デイリー副社長は「ファンはSoFiスタジアムをもっと見たいと思っています。今まで見たことのない部分をお届けし、そこにあるものを教えています」と話し、ファンがスタジアムに親しんでもらい、一般公開できるようになったときに愛着を感じてもらえることが目的だとした。
昨シーズンから行われているラムズピックは一種の予想コンテストだ。試合前に対戦する2チームのどちらが最初にロングパスを成功させるかや、選ばれた4人の選手の誰が最も多くタックルを記録するかといった問題を予想して得点を競う。スタジアムの創設スポンサーであるペチャンガ・リゾートカジノが冠スポンサーとなっており、成績優秀者には賞品も提供される。優勝者には2021年の同スタジアムでの「究極の試合体験」が贈られるということだ。
この他、YouTube TVでチーム独自のビデオ配信を行うなど、さまざまなデジタル施策を実施している。
デイリー副社長は「われわれの最優先事項はファンを育てることで、2番目が最も自然なやり方で収益化することです」とした上で、今年の成功は、チケットの販売や入場者数ではなく、デジタルとソーシャルエンゲージメント、保持率、およびファンベースの成長で決まる話す。「新型コロナウイルス以前には補助的な手段であったものが、今ではファンエンゲージメントのための優先手段となっているんです」という言葉は、まさに今シーズンのチーム運営状況を表したものといえるだろう。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。