プロフットボールの殿堂が財政危機に
2020年12月13日(日) 06:02プロフットボールの殿堂(ホール・オブ・フェイム/HOF)が破産の危機に瀕している。コロナ禍もあってHOFとその巨大プロジェクトが財政危機に陥っているのだ。
オハイオ州カントンにあるHOFは例年プレシーズンの最初に開催されるHOFゲームや殿堂入りセレモニーでおなじみの存在だ。今年は新型コロナウイルス感染症が世界的に流行した影響でHOFゲームが中止になったものの、近代選手のセミファイナリスト25人が発表になったばかりである。
そんなHOFはもともと名選手が使用したユニフォームや用具など記念の品々や殿堂入りメンバーの胸像など、展示が主で、HOFゲームは隣接する高校用のスタジアムで行われていた。NFL人気もあって年間約20万人が訪れる人気施設である。しかし、その一方でカントン自体は人口約7万3,000人の典型的なアメリカの田舎町だ。2016年の大統領選挙で話題となった”ラスト・ベルト”、錆びた地域に位置する。以前は主な産業として製造業が挙げられていたが、近年は衰退傾向にあったのである。
そこで街の振興策として2015年に打ち出されたのが『ホール・オブ・フェイム・ビレッジ(HOFビレッジ)』プロジェクトである。これはHOFにホログラムやVR(仮想現実)などを利用した体験型のアトラクションを追加し、プロフットボールのテーマパーク化を図り、2,500万ドルをかけてスタジアムをセインツの前オーナーの名をとったトム・ベンソン・ホール・オブ・フェイム・スタジアムに改修。周辺にフィールドなどユース向けの施設を建設してスポーツ・ツーリズムを導入。さらにショッピングモールやホテル、高齢者施設も設けるという壮大な計画だ。最近もドン・シュラズ・レストランやゴルフ練習場のトップゴルフ、エンターテイメント施設のスポーツイラストレイテッド・スタジオなどの入居契約が発表されている。
建設費用は当初1億ドルといわれていたが、その後5億ドル、一時は10億ドルとまでささやかれていた。事業主体はHOFと不動産会社のインダストリアル・リアルティ・グループの合弁だったが、今年特別買収目的会社ゴードン・ポイントが合併し、株式公開されたばかりである。
HOFとプロジェクトはNFLとは独立しているが、リーグのチームオーナーたちは先行きへの懸念もあったが昨年秋に1,000万ドルの資金を投じることを評決していた。そうしたこともあってロジャー・グッデルNFLコミッショナーと6人のチームオーナーがHOFの評議委員に就任している。
そのHOFビレッジの運営状況だが、プロジェクトの最大の収入源は大手自動車部品メーカー、ジョンソンコントロールズなどからのスポンサー収入となっている。そこにコロナ禍でイベント収入などの落ち込みが襲うこととなった。今年最初の9カ月間の売り上げは530万ドルにとどまり、2,220万ドルの営業損失を計上している。
喫緊の危機としては11月30日に3,450万ドルのつなぎ融資が満期を迎えることがあげられている。前回提出された四半期報告書では1億800万ドル以上の負債があり、手元資金は790万ドルだった。インダストリアル・リアルティが借り換えを行う見込みだが、ローンの返済期限が来年8月末になるにすぎない。
新たな資金調達のため、11月16日に新株を発行したものの、株価は低迷を続けている。このためインダストリアル・リアルティも「同社が継続企業として事業を継続できるかどうかは疑問視されている」とするほどだ。
HOFのデイビッド・ベイカー社長は「プロジェクトの規模について後悔していない」と述べたうえで「HOFは8月にこれまでにない規模のイベントを開催することを含め、ビレッジをサポートするために何でもする。HOFビレッジがこのパンデミックを乗り切るだけでなく、今後も発展していくことに期待している」とあくまで前向きな姿勢を示した。
NFLやファンにとってなくてはならない存在であるHOFの行く末が心配される。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。