コラム

カンファレンス頂上決戦! ヒューストンへの切符を手にするのは誰だ?

2017年01月19日(木) 06:41

ヒューストン・テキサンズの本拠地NRGスタジアム【Matt Patterson via AP】

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19週の長い月日を経て、いよいよスーパーボウルの出場チームを決める戦いが始まる。AFCは8年連続カンファレンス決勝進出を決めたペイトリオッツがスティーラーズを迎え、NFCはファルコンズが第1シードのカウボーイズを破ったパッカーズを待ち受ける。

マット・ライアンを除く3人の先発クオーターバック(QB)はいずれもスーパーボウル優勝経験がある。また、スティーラーズは9連勝、ペイトリオッツとパッカーズはともに8連勝中と好調だ。4年ぶりのNFC決勝進出となったファルコンズはビッグプレーオフェンスを武器に1998年シーズン以来となるスーパーボウル出場を目指す。

NFC パッカーズ(10勝6敗)@ファルコンズ(11勝5敗)

ジョージア・ドームで行われる最後のNFLの試合は華やかな空中戦となりそうだ。アーロン・ロジャースはカウボーイズ戦で約3カ月ぶりの被インターセプトを喫したものの、チームの連勝中は21タッチダウンパスを量産している。

ワイドレシーバー(WR)ジョーディ・ネルソンは脇腹の負傷で欠場が危ぶまれているが、WRランドール・コブや新人WRジェロニモ・アリソン、タイトエンド(TE)ジャレッド・クックがその穴を埋めている。

一方のファルコンズはライアンとWRフリオ・ジョーンズのホットラインに加え、デボンテ・フリーマン、テビン・コールマンのデュアルランニングバック(RB)によるランオフェンスが強力だ。さらにライアンはテイラー・ガブリエル、モハメド・サヌー、ジャスティン・ハーディといった豊富なWR陣やTEレビン・トイロロにもパスを投げ分ける。

ライアンは複数のターゲットがオープンになっているかどうかを瞬時かつ的確に判断し、セーフティバルブへのダンプオフパスも多く使うのでオフェンスのドライブが継続しやすい。ロングパスも正確で、敵陣に入ったらどの位置からでもタッチダウンパスが狙えるといって過言ではない。

このようにオフェンスの得点力が頭抜けて高い2チームの対戦ではすべてのオフェンスドライブでタッチダウンをとると仮定すると試合の鍵が見えてくる。ターンオーバーを起こせば相手の攻撃権を1回奪うことになるので点差を広げるチャンスとなる。ただし、ファルコンズもパッカーズもギブアウェーの少ないチームだ。レギュラーシーズン中はファルコンズが11に対しパッカーズは17。パッカーズの数字が大きいのは序盤の不振の時期にファンブルロストが多かったからで、中盤以降は大きく改善されている。

ターンオーバーは試合の状況を大きく変えるが、この組み合わせではそう頻繁には起きないだろう(もちろん、起きればそのインパクトは大きい)。とすると、相手チームのドライブをどれだけ多くフィールドゴールやパントに抑えるかが重要になる。ロジャースもライアンもパスでたやすくファーストダウンを更新できるQBだ。しかし、QBサックや反則による罰退で大きく後退した場合はその限りではない。

ファルコンズのラインバッカー(LB)ビック・ビーズリーはシーズン中にリーグ最多の15.5サックを記録したラッシャーだ。ビーズリーがパスラッシュのキーマンとなるが、ロジャースは頻繁にポケットから飛び出すことでパスラッシュをかわし、時間を稼いでロングパスを決める能力を持つ。スクランブルによってゲインすることも可能だ。パスラッシュによって大きくロスさせることは難しいだろう。いかに多くパスを投げ捨てさせ、ノーゲインに抑えるかが重要だ。

ライアンはターゲットが多いだけにリリースが早い。ダンプオフによってサックを避けることも多い。パッカーズではLBクレイ・マッシューズがスピードを駆使してラッシュを仕掛ける。セカンダリーのパスカバーとのコンビネーションが機能すれば、カバレッジサックを奪うことは可能だ。また、セーフティバルブへのパスは通されてもゲインを最小限に抑えることが不可欠だ。

パッカーズはファルコンズのタッチダウンドライブを阻止してフィールドゴールまたはパントに抑えることで、ファルコンズはランによるクロックコントロールでパッカーズからオフェンスの時間を奪うことで勝機が見えてくる。

AFC スティーラーズ(11勝5敗)@ペイトリオッツ(14勝2敗)

トム・ブレイディが正QBとなった2001年以降、ペイトリオッツはスティーラーズとAFC決勝で2度対戦し、2勝している。いずれも敵地ピッツバーグに乗り込んでの勝利で、続くスーパーボウルでも優勝するなど験のいい相手だ。

他方スティーラーズは“ブレイディ時代”に3度のスーパーボウル出場(2勝1敗)を果たしているが、いずれもプレーオフでペイトリオッツと顔を合わせない組み合わせだった。今回はジレット・スタジアムで宿敵を倒してヒューストンへとの思いが強い。

いずれもディビジョナルプレーオフは会心の勝利とはいかなかった。ペイトリオッツは珍しくミスを連発し、テキサンズに付け入る隙を与えてしまっている。シーズン中に2回しかインターセプトされなかったブレイディはこの試合だけで同数のピックオフを許し、パスのコントロールも定まらなかった。

こうした試合で別のヒーローが誕生するのがペイトリオッツの人材の厚さだ。ディオン・ルイスはラン、パスキャッチ、キックリターンでそれぞれタッチダウンを記録するというプレーオフ史上初の快挙を成し遂げ、勝利を呼び込んだ。

ペイトリオッツが2試合連続で不振に陥るとは考えにくく、打って変わってシーズン中のような安定を見せることだろう。体調不良で見せ場のなかったRBルギャレット・ブラントも完全復活し、TEロブ・グロンカウスキーを除けばオフェンスはほぼフルメンバーが揃う。

鍵を握るのはランディフェンスだ。ペイトリオッツは1プレーあたりに許すラッシングの距離が3.85ヤードでリーグ8位の好成績。しかし、スティーラーズのレベオン・ベルも1プレーあたりシーズン中は4.9ヤード、プレーオフに入ってからは5.7ヤードと好調だ。ベルはスクリメージラインの前でブロックの展開をじっくりと読み、空いたところに突入する。その間にOLはDLをダブルチームブロックしてからLBを押さえにかかる。

ベルにこうしたランを許すとじわじわと陣地を進まれ、レッドゾーンに侵入されてしまう。積極的なペネトレーションでベルがスクリメージラインを越える前にタックルすることができればスティーラーズの攻撃の芽を摘むことが可能だ。

スティーラーズはレッドゾーンでのオフェンスが課題。チーフス戦では1回もタッチダウンを奪えずに6フィールドゴールに終わった。堅守のペイトリオッツ相手にこれでは勝てない。エースWRアントニオ・ブラウンが執拗なダブルカバーに遭うのは明らかなので、イーライ・ロジャーズ、サミー・コーツといった若手やTEジェシー・ジェームズの活躍は不可欠だ。

スティーラーズが勝つためにはパスラッシュでブレイディにパスを投げる時間を与えないことだ。スティーラーズは個々のディフェンダーの守備範囲が広いため、シームゾーンを狙われると脆い。そして、これは過去にブレイディが何度もスティーラーズを破ってきた方策でもある。

これをさせないためにはプレッシャーを与え続けるしかない。キーマンとなるのはLBバド・デュプリーとジェームズ・ハリソンだ。デュプリーはパワーで、ハリソンはスピードと的確なコース取りでQBに襲いかかる。ブレイディは執拗なパスラッシュには意外に弱く、予想不可能なバリエーション豊かなパスラッシュは有効だ。もっとも、こうしたパスラッシュはカウンターパンチになるランプレイでダメージを受けやすいので、ランを確実に止めるのは大前提だ。

過去にペイトリオッツが対戦した中で今のスティーラーズは最も攻撃力が高い。このオフェンスを封じることができればペイトリオッツ、タッチダウンが量産できるようならばスティーラーズが勝つ展開となる。

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いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。