コラム

ディフェンスに人材豊富、今年のトップ指名候補たち

2017年04月23日(日) 09:42

フィラデルフィア・イーグルスの本拠地リンカーン・ファイナンシャル・フィールド【Aaron M. Sprecher via AP】

フィラデルフィアで開催されるドラフトがついに来週に迫っている。今年はディフェンスに有能な人材が揃っており、上位指名のほとんどが守備選手に偏りそうな状況だ。

中でも最も注目を集めているのがテキサスA&M大学のディフェンシブエンド(DE)マイルズ・ギャレットだ。多くのモックドラフトでブラウンズの持つ全体1位指名に予想されている。元NBA選手を父に持つアスリートでエッジラッシャーとして実績をあげた。

6フィート4インチ(193.04cm)、272ポンド(123.38㎏)という体格はやや細身に見えるが、瞬発力が高く、スピードとクイックネスでクオーターバック(QB)にプレッシャーをかける。テキサスA&M大学では3年間プレーして年間平均ふた桁サック(計31.0)の成績を残した。

タイプとしてはサウスカロライナ大学時代のジェイデボン・クラウニー(現テキサンズ)を彷彿(ほうふつ)させる。NFLの大柄なオフェンシブタックル(OT)やダブルチームカバーに対してどのように対処するか、課題とされるラン守備をどう改善させるかなど早くもキャンプでの“NFL修行”が楽しみな選手だと言える。

どのチームが獲ってもおかしくない人材で、ブラウンズが1位指名をQBに行使するなら2番手の49ersが獲得する可能性がある。いずれにせよ、今後大きな問題(明るみに出ていないケガや素行の問題など)が新たに発覚しない限りトップ5指名は堅いだろう。

スタンフォード大学のDEソロモン・トーマスも評価が高い。ギャレットよりも1インチ身長が低いだけでほぼサイズは同じだが、トーマスの方ががっちりした体形に見える。その印象にたがわずパワフルなプレーが得意で、ディフェンシブタックル(DT)への転向もあり得るとされる。

頭脳明晰でリーダーシップもあり、キャラクター(人格)重視なら指名して損はない。49ersのように若い選手が多く、再建途中にあるチームにはうってつけの人材だろう。

ディフェンシブバック(DB)陣にもタレントが多い。シーホークスのコーナーバック(CB)リチャード・シャーマンのトレード話が持ち上がっているのは、ドラフトで代わりの人材が見つけられると考えられているからだ。高額年俸のシャーマンを放出して世代交代を計るなら今年がチャンスだという憶測だ。

その真偽はさておき、オハイオ州立大学のCBマーション・ラティモアは今年のドラフト候補生の中では1位もしくは2位の評価を集める。プレスカバーが得意で、昨季はわずか1タッチダウンしか許さなかった。4インターセプトのうち一つをリターンタッチダウンとしている。

マイナス面としては過去にハムストリングの手術で1シーズンを棒に振っていることと、名門オハイオ州立大学の出身ながら先発経験はほぼ1年しかないことだ。これをチームがどう評価するかで指名順位が決まる。

セーフティではジャマール・アダムズ(ルイジアナ州立大学)が上位指名候補だ。ほとんどがストロングセーフティ(SS)としての貢献で、タックル数が多い。プロデーでは40ヤード走で4.45秒の好タイムを記録した。そのスピードを生かしてニッケルCBでもプレー可能で、先発経験も3年と豊富だ。その間、ホールディングとインターフェアの反則が一度もなかったというから驚きだ。父ギャレットはランニングバック(RB)として1985年にジャイアンツから1巡目指名を受けた。親子2代での1巡目指名が実現しそうだ。

先週も話題にしたQBではミッチェル・トルービスキー(ノースカロライナ大学)、デショーン・ワトソン(クレムゾン大学)がQBとしてのトップ指名を争いそうだ。トルービスキーは3年生だった昨年にブレークアウトした。大逆転劇でチームを勝利に導く勝負強さで注目された。ポケットの中で冷静にレシーバーを探すことができ、この点はNFLへの順応力が高いと予想できる。ただし、先発実績が少ないことが懸念され、そのために指名順位が下がるかもしれない。

ワトソンはハイズマントロフィー候補のファイナリストに2回なったほどのアスリートで、クレムゾン大学に全米王座をもたらした。肩はそれほど強くないが、ドロップバックしながらフィールド読み、正確なパスを投げる。常に冷静で、予想外の動きにも慌てずに対処できるとされる。堅実なプレースタイルで、いい指導者に恵まれればNFLでも長期のスターターに慣れる。

QBの指名については今年は特に難しい。このポジションを必要とするブラウンズや49ersが1位もしくは2位指名権を持つが、この貴重な指名権を行使するほどの人材が今年はいないとの評判だからだ。ただし、ブラウンズは12番目にも指名権を持つから、これを武器に積極策に出ることは予想できる。例えば1位指名権でギャレットを指名し、12番目指名権をどこかのチームとトレードアップしてトルービスキーかワトソンを指名することは可能だ。

昨年はトレードダウンしてカーソン・ウェンツ(現イーグルス)指名のチャンスを逸したことが批判を浴びた。今年は同じ轍を踏みたくないはずだ。

ブラウンズに限らず各チームがどのようなドラフト戦略を練ってくるかは非常に楽しみだ。当日、予想もつかないような指名やトレードが起きることがあり、そのたびに臨機応変の対応が求められる。このあたふた感もドラフトの魅力の一つだが、それに冷静に対処できるチームが強いことは言うまでもない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。