コラム

英断か拙策か、ブラウンズが新人QBカイザーを先発起用へ

2017年09月04日(月) 04:45

クリーブランド・ブラウンズのデショーン・カイザー【AP Photo/Jason Behnken】

ブラウンズが開幕先発クオーターバック(QB)をドラフト2巡指名の新人デショーン・カイザーにすると発表した。テキサンズからトレードで獲得したブロック・オズワイラー(後に放出)、昨年のドラフト3巡指名のコディ・ケスラーとのポジション争いに勝ち残ったカイザーは日本時間9月11日(月)に行われるスティーラーズ戦でNFLデビューを迎える。1999年にリーグ復帰を果たした新生ブラウンズでは実に27人目の先発QBである。

オフの間にはカイザーがまだNFLでの実戦投入には早すぎるという判断がブラウンズの首脳陣にはあった。名門ノートルダム大学の出身ながら2年しか先発経験がなく、OTA(チーム合同練習)やミニキャンプでもパスの精度やフットワークの未熟が露呈されたからだ。だから、キャンプイン直前まではオズワイラーとケスラーがポジションを争い、カイザーは来年以降の先発候補として育成する方針だった。

ところが、今年のロースターに残っているQBの中で唯一ブラウンズのオフェンスシステムを経験しているケスラーが予想外の不振に陥ってチャンスを生かせず、カイザーへの期待が高まった。プレシーズン3試合目で初のスターターを務めたカイザーがそのままシーズンの先発QBに指名されたのだった。

1巡指名ではないQBが新人で開幕先発を務める例は多くない。それだけにブラウンズは大きな賭けに出たというべきだろう。

カイザーを投入するメリットは早くから実戦経験を積ませることに尽きる。1年目は成績を度外視し、カイザーが一つでも多く試合を経験することに専念する。カイザーは出場した試合の数だけディフェンスを知ることになり、そこで培った知識が来季以降に役立つ。

この方法の成功例としてよくあげられるのが1998年にコルツに入団したペイトン・マニングだ。当時のコルツのHCジム・モーラはドラフト全体1位指名のマニングを辛抱強く使い続け、チームはわずか3勝しかできなかったが翌年には13勝3敗でプレイオフに進出する。マニングはその後、2011年に首の故障で全休するまで2001年を除いて毎シーズンチームをプレイオフに導き、2006年シーズンにはリーグ制覇を達成した。

しかし、新人QBをすぐに実戦に投入するにはリスクも伴う。NFLのスピードやサイズに慣れていないQBは成長を遂げる前に重圧に押しつぶされてしまうのだ。予想以上に速く動くディフェンスを読み切れずにインターセプトを量産してしまい、そのせいでパスのメカニズムが狂う。こうすると、NFLの水に慣れていないだけに修正が難しい。ブラウンズ自身も最近の例では2012年の1巡指名で開幕先発を務めたブランドン・ウィーデンで経験済みなはずだ。

1巡指名ではないにもかかわらず開幕先発に指名されて成功を収めた例もある。最近ではラッセル・ウィルソン(シーホークス、2012年ドラフト3巡)やデレック・カー(レイダーズ、2014年2巡)だ。ウィルソンは得意のリードオプションを駆使することで成功をおさめ、カーは失敗を重ねながらそれを修正して昨年大きく開花した。ブラウンズがカイザーに望んでいるのはカーのパターンだろう。

カイザーの先発起用はブラウンズにとって大きな賭けだ。成功すれば待ち望んだフランチャイズQB誕生となるが、失敗すればその代償はチーム経営に影響を及ぼしかねないレベルのダメージとなる。プロフットボール発祥の地としてプライド高いファンの多いクリーブランド。カイザーがそのチームの救世主となるのか、それとも27個目の失敗例となるのか。ブラウンズの命運はカイザーに託された。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。